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第四話-5

「今どうなっていると言っても、何日か前からあんまり状況は変わってないよ。鉱山はシャロン社長が閉鎖命令を徹底してて、入るには社長が直接会って入坑者の確認をする。お、このお肉美味い」


 嫌な話が聞こえた気がした。肉のことではない。


「おい、まさかフレデリカ・シャロンに直接面会しないといけないのか?」


「そういうことになるね」


「……はあ、やむを得ん、のだろうなあ」


 冬雪は一度、財閥が解体される前の会長アデラールを探るため、彼の邸宅に使用人として潜入していたことがある。無論その際にはフレデリカにも面識を持ったのだが、当時の冬雪は、姓名を偽っていたのだ。


 だが今回は、国際魔術師連合協会から派遣された三級魔術師冬雪夏生としてここに来ている。今回も前回と同じ名を名乗るわけにはいかなかった。


 一応その旨に関して、通信でトパロウルに確認してみると、


「フレデリカ・シャロンとルナ・アルテミエフだけは仕方ない。やりようがなければ名前を伝えても構わん」


 という。協会を通して派遣されている以上、「こっそり侵入して解決」という工作員的手段は使えないのだ。そもそも世間に事件が知られすぎて、人知れず解決するのが不可能だから協会を通すことになったのである。どちらかを捨てるほかなかった。


「おいおい、可愛い女の子を傍において、第三者と通信とはいい度胸じゃあないの」


「どこに可愛い女の子がいるって?」


「ここだよここ。……っていうかその通信どうなってるの? アルベルトのおっさん見えた気がするんだけど」


 協力者におっさん呼ばわりされるトパロウルだが、一応まだ中年と呼べる歳ではない。


「通信に関しては企業秘密だ。本当なら見たことすら忘れろと言いたい。忘れろ」


「自営業兼国家公務員が企業(・・)秘密とか笑える」


 適当な言葉がすぐに出てこなかったのだから仕方ない。


「まあいいや、話戻すけどさ、鉱山入るなら気を付けた方がいいよ」


「それは言われるまでもないが」


「いやあ、どうかね? 多分夏生くんが思ってる以上に現状は酷いよ。今は三〇人くらいの死体が入口に転がってるからね、腐臭に気を取られたら、何がやばいのかわからなくて死んじゃうかも」


「……それは、肝に銘じておこう」


「あと、こっそり忍び込んで死んだ人がさらに何人かいる」


「馬鹿な奴がいたものだ」


 危険だから入るな、と言われているのに入って死んだのだ、そんな者たちの面倒までは見切れないし、見てやる義理もないだろう。完全に自己責任である。


「しかし、迷宮に入った奴らは何で死んだんだ? 毒でも充満しているのか?」


「それがよく分からないらしいんだよね。教魔科学省が調べに行ったときは、入り口で分かりやすい毒がないことを確認してたのに、それでも中に入った途端死んじゃったんだから」


 恐ろしい話だ。教魔科学省といえば、共和国内の学問や科学技術を管理している官庁である。当然毒の検出くらいお手の物だが、その教魔科学省が検出できなかった毒とは一体何なのか。あるいは、それは本当に毒なのか。


 強いて教魔科学省の弱点を挙げるならば、把握している科学技術に魔法が含まれていながら、その大部分が魔術魔法で占められていることだろうか。精霊術魔法には魔術魔法で再現不可能だと言われている技術もあり、それが使用されていると教魔科学省は気付けない可能性がある。


(もし本当に死因が魔術以外の魔法なら、ボクが気付けるかは五分といったところだな)


 簡単に死ぬつもりはない。だが、簡単に生きて帰って来られるとも限らない。今回は常になく危険で高難易度の任務になるだろう。

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