第四話-2
それが発見されたのは神暦五九九三年九月二日と考えられ、発見したのはシャロン魔石鉱業株式会社の鉱員の一人だった。最初の死者も彼である。
鉱山で魔石の採掘を行っていた鉱員は、鶴嘴を使用して岩石を砕き、除去しながら、発見された魔石を回収する仕事をしていた。爆薬を使用すると、高い熱エネルギーが地中で閉じ込められることによって魔石が反応し、意図しない爆発が発生する危険がある。魔道具の使用も同様で、魔石の鉱山は鶴嘴以外の道具を使う選択肢は存在しない。
その鉱員は、いつも通りの仕事を行っていた際に、岩石の中に人工物らしき石材を発見した。材質は周囲の岩石とそう大きく変わらないように見えるのだが、鶴嘴を振るっても砕ける様子がない。これに興味を持った彼は、周囲を掘り進めて石材が大量に埋没していることを知った。
シャロン魔石鉱業の現社長であるフレデリカがこれを知るのは、それから一日か二日が経過した日の夕刻だった。鉱員が埋没した人工物の発見を隠蔽し、一人で地中を探索していたものと見られている。フレデリカが事態を知るのは、鉱員一名が坑道から出てこない、という報告を受けてからだ。
他の鉱員たちが再度坑道に潜って捜索すると、人工物の存在が判明。突如として現れた空間に、行方不明の鉱員が倒れていた。立ち入った鉱員がその場で倒れたため外から紐を投げると、最初に踏み込んだ鉱員は死後硬直が始まっていた。他の鉱員の目の前で人工物に入った鉱員も、引き上げてみると死亡していた。
「……鉱員が変死したという通報で坑道を調べに入った警察官も、一名が死亡した。その後調査に向かった陸軍の一個大隊と教魔科学省の調査チームは全滅して死体も引き上げられていない。だがどうやら、中は複雑な迷路のようになっているらしい、ということは判明した。その調査の順番が、次は特別情報庁に回ってきた、というわけだ」
『幻想郷』の執務室、トパロウルが冬雪に説明した内容がこれだ。入ったものは例外なく死あるのみ、そしてなぜトパロウルが冬雪を呼んだのか。理由など一つしかない。
「本部からの命令だ。『呪風』を、ヴェジョールの坑道へ派遣し調査を行わせろ、とな」
何しろいつものことだから、トパロウルとしては一度ごねられることを想定していただろう。ごねたところで最初から拒否権はないし、嫌そうにしながらも最終的に冬雪は任務を完遂してくるので、多少抵抗するところまではトパロウルも計算の内である。
そして冬雪は勢い良く、トパロウルの執務机に両手を突いた。
「いいんですか!?」
──かつてないほど、左右色違いの目を輝かせながら。
「……はあ?」
「侵入するものを容赦なく絶命させる隠された地下迷宮……うわあ、特別情報庁に入って良かったな。一度やってみたかったんだ、迷宮攻略」
「おい、冬雪?」
計算外れもいいところだ、冬雪が厄介な任務を、二つ返事で引き受けるなど。しかもこれは、これまで彼に割り振った任務の中で、飛びぬけて危険の大きいものだ。喜んで飛び込む馬鹿がいるわけがない、とトパロウルは思ったし、さすがに言い渡すのに躊躇があった。
それがどうか。スパイのやることではない気もするが、ここまで喜ぶ姿を誰が想像できようか。喜んで飛び込む馬鹿がここにいた。こうなるともはや自殺志願者である。まあまあ手の込んだ自殺である。
「冬雪、話を聴いていたか? これまで調査に入った者は皆尽く死んでいるんだぞ? なぜそんなに喜べる?」
「だって、迷宮攻略ですよ!? 魔術師として、魔法使いとして、これが喜ばずにいられますか!」
もういいや、とトパロウルは理解を諦めた。何が嬉しいのかさっぱり分からなかったが、まあ託した任務に喜んで挑んでくれるならそれでいいか、と思ってしまったのだ。
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