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第三話-6

 もはや何と言っていいのか分からなかった。首都日報の情報収集能力と執念を甘く見ていた。これでも冬雪は、これまでかなり行動には気を遣っていたのだ。特に、冬雪夏生ではなく、『呪風』として動くときは。


 それが不十分だと、トパロウルに言われるならまだ分かる。別に受け入れるからと言ってわざわざ言われたくはないが、一年目の部下とはそういうものだ。


 だが新聞社の管理職とはいえ、一般人に指摘されてはもうどうしようもないだろう。あまりにもどうしようもない。全て首都ギルキリア市での行動とはいえ、首都日報の情報収集能力はまるごと特別情報庁で管理したいくらいだ。


「以上が、私と妻が、冬雪さんを情報工作員と推測した根拠です」


 適切な情報を証拠として並べられて推理されては、言い逃れは不可能だ。これが個人の探偵程度であれば、本部に報告ののち適当な理由がでっち上げられ、何らかの方法で口封じがされるだろうが……監視及び保護を命じられている相手では、恐らく口封じの指示は出ないだろう。


 文民(シビリアン・)統制(コントロール)からは逸脱するが、この場で冬雪自身が何かを操作せねば、今後の活動に差し支える。


(もういっそ、この二人をボクの協力者として取り込んだ方がいいのか?)


 そうなれば、首都日報が握った情報をいち早く特別情報庁が掌握することができる。無論首都日報本社にも特別情報庁の協力者はいるものの、そのほとんどは末端の記者だ。管理職にはなかなか手が届かない。


 その点冬雪であれば、この夫妻とは子供の友達の保護者同士、という私人上の交際を演じ、情報獲得が自然かつ円滑に行える期待がある。


 ──もうどうせこちらの正体は半分ばれかかっているのだ、せいぜい状況を最大限に有効活用してこそ、情報工作員というものである。


「驚きましたよ、そこまで調べ上げているとは」


「偶然が重なっただけですよ」


「まあそういうことにしておきましょうか。ですが、それ以上踏み込まない方が身のためです。スチュワート一家の名前を、社会から消すことになりかねません」


 空になったティーカップをテーブルに置き、冬雪はソファに深く身体を沈めた。特別情報庁の本部で『撃鉄』や『薬莢』と商談をするときとは全く違う態度──余裕だ。脅しと受け取られかねない台詞を放ち、先手(・・)を打たれたとしても、一〇割対処できるという自信の表れである。


「グレゴワールさんのジャケット後部と、シルヴィさんの背もたれの裏」


 冬雪が呟いたのは、そこに拳銃が存在することが分かっている、という表示だ。夫妻の顔色が変わるのを見て、彼はわざとらしく両手を挙げて見せた。


「ボクが相手なら、全く無意味な装備ですね」


「脅し、ですか」


「警告ですよ」


 と言ったのは、スチュワート一家が社会から消えることについての話だ。


「まあ心配せずとも、首都日報が他国に染まりでもしない限り、ボクが敵になることはありませんよ。そして、新聞社の敵に回ってボクが出ることがあれば、それは首都日報を地上から消し去るときです。そうはならないでしょう?」


「……肝に銘じておきましょう」


 首都日報が変な方向に向かっていないか探っておけ、と言われはしたが、とんでもない話だ。探られていたのはむしろこちらである。最終的には釘を刺すことには成功した。だが、今日のことを報告した後、トパロウルに笑われる過程は避け得ないだろうな、と冬雪は覚悟した。

よろしければ、作品のブックマークやいいね・レビューなど頂けますと幸いです。

あとここで投稿一〇〇回目らしいです。

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