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第二話-1 天使再来

 魔道具屋を本格的に営業させ、幽灘を初等学校に編入させたところで、冬雪のやることが全て終わったわけではない。むしろ三等工作員としての働きは、ここからが本番というところだ。


 第二世界空間の単位に不慣れだった幽灘はようやくそれに慣れてきた頃合いであり、生活上も次の一手を進めるときとして適当な時期だ、と冬雪は判断した。神暦五九九三年五月半ば、ある週末のことである。


 冬雪魔道具店はギルキリア市中央区の住宅地にあり、約一〇〇レイア程度歩くことで、広大な公園に出ることができる。広場や遊具などが充実したそこはギルキリア市が運営する公共施設の一つで、ギルキリア市中央公園と呼ばれていた。


 そこに、冬雪は幽灘を連れていくことにした。日本で死亡してから一年と五ヶ月、冬雪のもとで保護されていたその期間の幽灘の交友関係といえば、魔力使用者細川裕の傍付きだった大天使、ラザム一人くらいだった。細川の幼馴染の姉妹や零火の友人の少女とも多少面識はあったようだが、ラザムに比べれば接触回数は極端に少なく、数えていいものか怪しいところがある。


 要するに、第二世界空間では寂しい思いをさせたくない、という冬雪の保護者心が一つの理由ではあるのだが、いずれにせよ、すぐ近所に広い公園があるのに利用しないのでは損である。幽灘は本来活発な少女だったらしく、転生者となってからは体力を持て余しているようで、遊び盛りの一〇歳の少女を充分に遊ばせる機会も必要だ。養女と対照的にインドア派の冬雪ではどこまで付き合えるか不安が残るが、少なくとも悪い結果にはならないであろう。


 近所に遊べる場所がある、と伝えると、幽灘は二つ返事で行きたいといい、冬雪はすぐに、彼女をギルキリア市中央公園に連れていくことにした。


 ギルキリア市中央公園は、前評判通りの広々とした公園で、広場は端から端まで冬雪が全力で走っても二〇秒はかかるほどの距離がある。その地面は芝生になっているので転んでも比較的怪我をしにくいようになっており、飼い犬を放して駆け回る市民の姿も見えた。少数だが、座って軽食を摂る家族連れの姿も見える。


 幽灘を連れた冬雪は、広場の隅に緑髪の少年少女がいるのを見つけると、彼らに声をかけた。


やあ、こんにちは(エーレン・テラーニャ)。今は君たち二人だけかい?」


 先に答えたのは、少年の方だった。


こんにちは(テラーニャ)、そうだよ、僕と妹だけだ」


 この二人は兄妹ということだ。妹の方は、見たところ幽灘より二つか三つ年下らしく、幼い容姿をしている。兄は妹の手前、必死で背伸びをしているように見えるが、冬雪の見るところ、年相応に可愛げのあるただの少年だ。年齢は幽灘と同じくらいだろうか。


「君たちさえ良ければ、うちの子と遊んでやってくれないか? ボクたちは最近ギルキリア市(こっち)に引っ越してきたんだ。……幽灘、いつまでボクのコートに隠れている?」


「ユナ?」


 右も左も分からない新天地の公園で人見知りを発揮する幽灘だったが、少年の方がその名前に反応した。


「そこに隠れているの、フユユキ・ユナか?」


「知っているのか?」


「ああ、僕のクラスに先週入ってきた子と名前が同じだったから、もしかしてと思って。やっぱりそうだ、ユナだ!」


「……アントニー?」


 幽灘の方も、少年を思い出したらしい。初等学校のクラスメイトだったようだ。面白い偶然もあったものである。それと知ると、冬雪は即座に態度を決めた。腰をかがめ、目線を緑髪の兄妹に合わせる。


「では自己紹介をしておこう。ボクは幽灘の保護者の冬雪夏生、この近所の魔道具屋の店主をしている。幽灘と仲良くしてやってくれ、アントニー」


「こっちも紹介するよ。僕はアントニー、アントニー・スチュワート。こっちは三つ年下の妹、アネッタ」


「よろしくね、アネッタ。ぜひ君も、幽灘と仲良くしてくれると嬉しいな」


 アネッタも人見知りをするのか、返事の声はかなり小さかったが、冬雪はむしろ、微笑ましい気分だ。


 この二人に早い段階で繋がりを持てたのは、冬雪にとっても僥倖(ぎょうこう)だった。

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