2話 四章 手作りクッキー/すみれ茶 1
翌日。ーー
既に日は昇り、頭上よりも高い位置にあった。
ちょうど朝と昼の中間の時間帯である。
この日も、やや気温は高めだ。日光がジリジリと照りつけだしており、緩やかに暑さが増している。
たまに心地良い風が行き過ぎる。
すると領主の屋敷の庭では、庭木の枝葉が揺れてざわめき、花壇の花は風に香りを乗せて飛ばしている。
その庭には、庭師の男がいた。鐔広の帽子を目深に被り、作業着を身につけた人である。ずっと花壇の雑草を抜いており、もう朝から黙々と同じ作業を続けていた。
ふと黄色い蝶が飛んできた。最初は花壇の花の周囲を飛び回っており、最後には庭師の帽子に止まって、羽根を休ませている。
「んま、あ!」
さらには、近くから赤ん坊の声が聞こえてきて、ゆっくりと小さな気配が寄ってくるようだ。
徐に庭師の男は、振り返る。
その先には、アリサがいた。ハイハイしながら近づいてきて、男の目の前で停止すると、帽子の蝶をまじまじと眺めだした。やがて蝶が再び飛び立つと同時に、目で動きを追っていき、思わず身体も動いてのけ反る。夢中になっており、周りが見えていないようだ。
「おっと、っと。」
とサーラが颯爽と側に駆け寄り、後ろからアリサの背中に手を添えて支えた。
その様子を庭師の男は見て、ほっ、と息を吐いて胸を撫で下ろしていた。




