2話 序章 遥か昔の思い出 3
キッチンの中は、一瞬だけ静寂に包まれる。
「…そうだったのか。…それで、いったい彼女は、なんと言っていたんだね?」
それでもラーサは、平常心を保つと、再び前に向き直って問いかけていた。
「あの、……告白されたのは、嬉しいけど。…食べ物の好き嫌いする人はヤダって。」
「ん?…なんだと?」
「…えっと、…この前の晩飯の時に、あいつが料理を手伝ったじゃん。」
「あぁ、確かに。おかずを一品だけ手伝ってもらったな。…えっと、野菜を薄い肉で巻いたやつだったな。…」
「…あれにさ、…トマトが入ってたじゃん。…あいつが作ったのを知らなくて、…俺、口に入れた瞬間に思わず、旨くないって言ったんだ。…そのうえ残しちゃって、…」
とアルバートも俯きながら状況を告げると、また黙ってしまう。
そこでラーサが動いた気配がした。アルバートの側まで寄ってくると、その場で屈みながら、両手を前に伸ばしてきたようだ。
対してアルバートも気がつき、顔を上げたら、ー
「…むぎゅー、」
「…ほえ?…」
と、ラーサの両手によって両頬を押されて、変な表情にされてしまい、思わず声を漏らした。訳がわからないようだ。
「あ、あの?」
「…はは。何かと思えば、そう言う事ではないか。…なら、ワシに任せれば大丈夫じゃ。」
するとラーサは、踵を返してテーブルに向かう。徐に鍋からスープを皿に入れると、持って戻るや否や匙と一緒に差し出してきた。




