7話 思い出のアップルパイ 18
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あれは、随分と前の事である。
リリャーが【ネオマルフィア】の料理屋で働き始めたばかりで、まだまだ大人になろうと背伸びする少女だった頃だ。
ある日の閉店間際に、些細な出来事があった。
一人の男性客が怒鳴り散らしていた。
対してマリーやリリャーは、ひたすら頭を下げている。
リリャーは自分を責めていた。ほんの僅かな気の緩みから、客に料理を溢す粗相をしてしまったのだ。
そのままの状態が続く。
暫くすると、ようやく客は踵を返して出入り口を潜り抜け、「二度と来るか!」と捨て台詞を吐きながら去っていく。
それから少しの間、リリャーは店の角の席で項垂れており、目尻に涙を溜めながら泣くのを堪えて、鼻を啜っている。
「あんなの、気にする事ないわよ。…失敗は誰にだってあるわ。」
だが背後から、マリーの声が聞こえてきた。さらに、彼女の手が自分の頭に触れて撫でてくる感覚を感じる。
リリャーは、すぐに振り返る。
すると目の前ではマリーが皺くちゃな顔で優しい微笑みながら、料理の乗った皿を差し出してきた。
皿に乗っているのはアップルパイだ。
「これはね。…私の大好きだったお祖父さんみたいな人が作ってくれたの。…私の一番のお気に入りなの。…とっても美味しいから、食べて元気をだしなさい。」
と、マリーは促してくる。
それを受けて、リリャーはおずおずと一口噛り咀嚼すると、身体中に美味しさと幸せな気持ちが隅々まで染み渡った。さらに思わず声をあげて大泣きしていた。
しかし、アップルパイの食べる手は止めない。
マリーも微笑んでいた。ずっとリリャーの背中を擦りながら、泣き止むまで慰め続けたのだった。




