7話 思い出のアップルパイ 16
釜戸では、男達が屯している。
そこへサーラは寄って行き、パイ生地の乗ったトレイを手渡す。
「お願いします。」
「おうよ。」
と親方が受け取ると、他のハンター達も順番に手に取った。
そのまま彼等は、次の作業を引き継いだ。予め余熱しておき、釜戸は温かさが隅々まで行き届いている。
奥まで均等にパイ生地を並べ、じっくりと火を入れる。たまに手前と奥の生地の位置を入れ替えながら、釜の内部に水を射し込んで、温度を調節している。
「今の温度は、だいたい200度だな。」
と親方が代表して報告する。
「なら、そのままの温度を保って。…焼き続けて。」
「何時だ?」
「…20分。」
とサーラも指示を送ると、座り込んだ。釜戸の側で屈みながら中の炎を見つめる。
ゆらゆらと炎は揺らめいていた。じっとりと熱の温かさが伝わる。
さらに薪はパチパチと音を鳴らし、煙は香ばしい薫りを漂わす。
あらゆる要因が人々の五感を刺激していた。
「そうか。…マリーには、これを食べさせてやれんのか。…また約束守れなかったのう。」
ふとサーラは、知らず知らずに両目から涙を溢していた。なんとなく寂しさや悲しさが心の中に渦巻いてしまう。
同時に脳裏には懐かしいと感じる光景が過ってきた。栗色の髪青い両目の少女の笑った顔や、お祝いの日の出来事を鮮明に思い出してしまう。
「サーラちゃん?…」
「何を言ってんだ?」
「どうして、泣いているの?」
その様子に村人達も気がつき、矢継ぎ早に理由を聞いてくる。
しかし、サーラは涙を袖で拭うと、「…なんでもない。」とだけ呟いた。続けざまに利き手に布を巻き付けたら、釜戸の中から全てのパイを取り出す。
そうしてアップルパイは完成したのだった。




