7話 思い出のアップルパイ 10
「よっと。…」
だが親方が間一髪で、利き手を伸ばして、地面に付く前に掬い取った。ついでに、りんごに傷がないか確認するや、
「…なかなか旨そうに熟してるな。…こいつ一個貰うぜ、商人さんよ。これで勘定してくれや。」
と言いつつ、豪快に齧りついた。因みに然り気無く反対の手で、硬貨を店主の方へ放り投げて渡している。
その直後に、「あっ、…」と若い商人は、声を漏らした。
「うわっ!?…思ったよりも酸っぺぇ!!?」
同時に親方も、口の中で感じた味に驚くと、しかめっ面となっていた。
そんな様子を他所に、アニタだけは状況を聞く。
「なんで、こっちのりんごを持っていくんだ?…あっちにも幾つか用意されてたろう?」
「そうよ。…でも、りんごの種類が違くて、使いたい種類のが足りなかったのよ。…あれだけじゃ、リリャーさんの食べたい味にならないわ。」
とサーラは答えながら、商人に代金を支払うと、踵を返して歩きだし、ハンター支部の方に戻っていく。
「え?!…同じ食材でも、種類で味が違うのかい?」
と、アニタも質問しながら、すぐに後を追いかけた。
やや遅れて親方も気がつき、慌てて移動しだした。
瞬く間の出来事だった。
商人達は呆気に取られ、ただただ様子を眺めていた。
ふと若い商人が思い出して、
「…親方、あれ、…渡し忘れてますぜ。」
と言っていた。
「あ!…そういえば、…ちょい待ってくれ、嬢ちゃん!!…渡したい物があるんだよ!」
「えぇっ!?…お頭!」
「後、頼んだ!…店番宜しく!」
それを聞いて、店主も走り出していくのだった。




