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異世界Must Go On!  作者: 好里
第1章
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第4話「もう、怒ったぞーっ!」

 マスターの両前足の前面にプリズムに煌めく幾何学複層陣が形成された。極めて高難度(マスター)の術式だ。周囲の大気からマナが凝集される奔流が生じた。

 マナとは世界に満ちる万物のエネルギーの根源である。半物質であり、自然界で扱うには高度の技量を必要とする。術式の効果を上げる製品はとても高価で取引される。

 船室天面にで見守っていたマリナは、号令を下し、船団に所定の行動を取らせる。

 俺は何が起きるのか分からず、見守るしかなかった。

 サキュラはいつものワクワクをし、黒鎧はいつものムッツリをしていた。

 高密度収束体が臨界に達すると、マスターは一気に迸らせた。

「!!!」

 やはり、喋らなかった。

 真正面のクラーケンはその巨大な体ゆえに避けることも許されず、光の暴力を受け止めるしかなかった。

 !!!!!!!!!!!!!

 光が辺りに散乱する、クラーケンは攻撃をクロスした2つの触腕で凌ごうとしていた。

 すぐに待機していたオレンジが、マスターを掴んで、飛び立った。攻撃方向を変えるためだ。失速しかけた所を、カモメにモーフィングしていたサキュラも助けに入った。

 鞭のようにしなる残りの腕が船団を襲い出した。

 大きな振りが海面にのたうち、船を薙いだ。

 幾本かがマスターを狙い、高高度で離脱するのが見て取れた。

「うぉっ!!」

 大波が来て、俺達の小舟を揺らした。

 体勢を崩した俺は、身じろぎもしない黒鎧に後ろから負ぶさる格好になってしまう。

 状況を確かめようと前を向いた瞬間、俺は信じられない光景を見る。

 伸縮する触腕が、目下正面の俺達の船を標的にしていると分かったからだ。

「まずいっ!!! 来るぞっ!!!!」

 俺は黒鎧を前方に押し倒して、庇おうとする。

 だが、黒鎧はすんとも動かず、密着するだけに終わる。

「後ろから支えていて……」

 黒鎧の小声は風にかき消されて、俺には届かなかった。

 刹那、世界の音が変わった。

 先行する衝撃波だった。そして大質量のエネルギー体。

 ドォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!

 吹っ飛ばされていない?

 双子の触腕を、黒鎧が盾で受け止めていた。

 黒鎧と俺の周囲に、パステルブルーの淡い色彩が包まれていた。

 盾の表面から発生したアクアマリンの干渉波が、敵の腕を絡み取って、抵抗していた。尋常ではない力勝負。俺はすぐに加勢に入った。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 ヤバイっ!!!

 俺は、二人ともが呆気なく吹き飛ばされて霧散するのを自覚した。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 同時に、黒鎧が長い息を吐いた。

 何をするつもりだっ?

装甲分離(キャストオフ)っっっ!!!!!!!」

 全ての防具の、術式に込められたマナを大解放し、力場を獲得する技。失敗したら後がない荒業だったと後に聞く。

 軍配はこちらに上がった。見事に触腕部分を破壊したのだ。並みの大討伐なら、数日がかりの偉業だ。

 驚くべきは、それほどの力を内包していたことだった。

 失われた黒鎧のフルフェイスから、解かれた金髪がファサと広がった。

 力を使い果たしたのか、俺にしだれかかり、脇の下から抱きとめる。気を失っていた。

 そして、俺の手が新しい感触があることを告げていた。

 ふに。

 つい確かめてしまう。

 ふにふに。

 お、女ぁ~~~~~~~~~っ!?

 怒号渦巻く戦場真っ只中での、ささやかな心の叫びだった。


  *


「一斉攻撃ぃぃぃぃーーーーーーーーーーーっ!!!」

 マリナが全船団に命じた。

 かくして、てぐすねを引いて号令を待ち構えていた騎士や隊員が、集中攻撃に転じる。

 長い総力戦が始まった。

 宮殿神官の加護を受けた投擲兵器群が、流星となって敵に降りかかる。

 高レベル術式の雷撃、火球、暴風がない交ぜになって、体を切り刻む。

 クラーケンは残った腕を振り回し、口であるカラストンビからはウォーターポンプで抵抗する。

 触腕を失ったクラーケンの胴体部への攻撃にはボーナスダメージが入る。

 概して再生力の強い巨大生物だが、クラーケンの場合、腕の再生を優先させる特性があり、本体部が極めて有効になる。

 この番狂わせに、長期滞在を見込んだ商売人たちは大いに冷や汗をかいているに違いない。

 敵は再生が追い付かず、エンペラもボロボロになり、見るからに力を失っていた。火力全フリとはいえ、脆すぎるようにも思えた。倒すたびに強くなるタイプなのだろうか。体力を10%割った時に、特殊技・大洪水(フラッド)が発動するが、溜める前に討伐する勢いだった。

 勝利を確信した者や、ど派手なバトルにエキサイトした大勢の客たちから、歓声が上がる。

 オレンジがマスターを抱っこして、クラーケンの頭上から光の砲撃を浴びせる。

 共に飛翔するサキュラは、加護を受け、風弾と化した羽根を打ち出していた。

 目敏い者たちから、どよめきが起こった。

 カラストンビから矢庭に光が生じ始めたのだ。

 ──特大口径光子砲(フォトンビーム)。神獣級の術式がコンソールに表示された。

 まずい指向しているのは俺たちだ。

 光の脈動が均質に見えた。つまり正面。

「待った~~~~~っ!!!!!」

 それは怒ったサキュラの声だった。空から発射された光に飛び込むのが見えた。

 意図が見えなかった俺は、当惑するしかなかった。

「んぐぐぐぐぐぅ~~~~~っ!!!!!!」

 衣装がイカに変わっていた。両手を前方に展開した外套膜で受け止める。

「ちぇすと~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!!」

 オレンジの真似をして、力いっぱいはじきかえしたのだった。

 それが決まり手だった。口腔に穴を開けたクラーケンは、今度こそ海に還っていく。また復活して来るのかもしれないが。

 とりあえず、皆で得た勝利を讃えたいと思う。

 船団が湧いた。陸からの心地よい喝采を一身に受ける。

 サキュラが、勝利の旋回をしていた。

 モーフィングで取り込んだのはイカではなく、クラーケンだろうなと思う。

 ピロピロリン♪

 愉快なチャイムが俺の頭の中に鳴り響いた。

 これは……

 俺は驚くべきことを、知るのだった。

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