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異世界Must Go On!  作者: 好里
第1章
2/6

第1話「どこかで、もう1つの出会いが。」

 世界(ワールド)--未詳--。

 樹林が広がる未開発な自然世界。世界には何も設定されていない。

 冒険者が通わない、野獣だけの住む世界がいくつかある。あまたの世界の中、そのような場所が生じるのは当たり前かもしれない。全てを管理できるわけがない。だが、世界の分岐からは、確かに繋がっているのだ。


 玲瓏な月の光の下、走る白い影。

 ケープとスカートの裾を翻して、林の中を音もなく駆ける。

 疾走と言うよりも、滑空するといった方が適切かもしれない。

 その影は、夜の木々の間を澱みなく、しなやかなステップを踏んで、進む。

 それと対称的なモノが2つ。

 ガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!!!!!

 黒い影々は唸り声を上げつつ、進路の木々を木っ端に変えて進む。その大きさは、林よりも大きかった。

 直線的な移動は、白い影との差を徐々に詰めてきていた。

 白い影の運動技量は圧倒する物ではあったが、走力では幻獣種ギガントキマイラたちに軍配が上がった。

「チッ」

 それを察知した白いフードの主が舌打ちする。上品さを兼ね備える若い女性の物だった。

 シュッ!

 音もなく跳躍。地を蹴るのは白い硬質のハイヒールだった。

 装備品に付与(エンチャント)の術式がかけられるのは一般的だ、しかし基本的な作りが性能に大きく関わるのは常識だ。走るための靴ではない。明らかに装飾用で、戦闘用でもなかった。

 中空に飛んで半身を翻す。まくれ上がるスカートの内の白皙な肢体が、月のさやけさに映えた。敵を見下ろす瞳は透き通った青。スカイブルーアクアマリン。

 キマイラの複数の獣眼もまた、獲物を映し出す。

「グゥオオオオオオオオオッ!!!」

 大きな他を威圧する咆哮(ロアー)。ギガント級の場合、遠距離まで威圧判定の対象になる。抵抗ロールに失敗すれば、様々な戦闘不利効果を強制付与される。

 だが、そのいわば詠唱(キャスト)が遮断されることになった。

 首が飛んだのだ。

 屈強な男が腕を伸ばしても、まだまだ余る首周りを一撃で。

 シュルシュルシュルシュル……

 ブーメラン状の白い物体が回転飛行し、主の元に戻った。精緻な刺繍の施された白い手袋の中に、吸い付くように。

 着地時に吹いた一陣の風に、フードがめくれて、たなびき、顔が月明かりに照らされる。鼻筋の整った切れ長の美少女だった。薄めのブロンドで、シニョンに結われた髪の一部が流されている。

 少女は再び走り出し、跳躍。

「大丈夫だった?」

 突然、別の少女の声がした。それはケープの胸元から現れていた。

 ひょっこりと、顔を出す。髪は女性と同じ色だった。一見姉妹に見える。

「ええ、お嬢様」と優しく答え、その視線をもう1匹に戻す。

 それは、さきに倒した奴よりずっと後方にいた奴だが、体躯が一回り大きかった。

 音もなく着地すると、再び林を走り抜ける。右手に武器を、左手でお嬢様と言った少女を抱え込みながら。

 白いブーメランは鋭い”くの字”をしていた。奇異なことに、怪物を屠った斬撃をもたらしたとは思えないほど断面は丸く、刃物の形状とも程遠かった。ただ、翼長は彼女の身長をゆうに超えるもので、使うには相当の技量が必要だと見受けられた。

「グゥオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 咆哮。

 移動のベクトルが垂直方向に割かれていた彼女達は、すぐに捕捉されることになった。

「うるさ~いっ!」

 7つか8つに見える少女は自身の耳を塞ぐ。それはポーズで、効果は受けていない余裕が垣間見えた。彼女なりに自身の状況を伝えているのだ。

 林を抜けると、開けた場所に出た。草もまばらな岩石地帯だった。

「ここで仕留めます。お嬢様」

 胸元から少女を降ろして、足を地面に着けさせる。黒のシックなワンピース姿だ。

 タタタッ

「頑張れ~っ、クラリッタ」

 エールを送る少女の横顔は、先よりも少し大人びた姿に見えた。

 ザッ。

 ケープを取ったクラリッタは、黒地に銀の装飾を施したメイドスタイルだった。その物腰は貴族階級を彷彿とさせたが、手にするのは剣呑なブーメランだった。

 彼女が持ち手を変える。くの字の折れ曲がった部分に左手を移動させると、形状が変化し弓型に変わった。光の粒子が弦を作りだす。つがえた右手には矢が生じる。

「グゥオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 さらに直近の咆哮をまといながら、ギガントキマイラが林から現れ出る。その後方には、おぞましい蹂躙の末の、かなり幅広の自然道が完成していた。

 敵の選択した突進攻撃(ダンプ)。は完遂しなかった。

 胴体がなかった。

 支えられるものを失った上体と四肢が、無残に転げ落ちる結果になった。


 ──少し前のこと、新しい武器を開示した時点。

 つがえた矢は()()()のではなく、すでに残光だった。そして、それは同時に二の矢に切り替わっていたのだ。

 敵は倒されたはずだ。

 なのに、二人は警戒態勢を解いていなかった。むしろその度合いは上がっていた。

 ジリッ

 少女が足元を確かめるように靴底を地面にこする。惑いの表情で、林の先を見つめていた。

 クラリッタは()()()()()()()()()()()()()

 矢が示す射線上。青い光が発生して消えた。何回も。

 その減少が2人に近づいてくる。

 林の出口に至ると理由が判明した。

 青年がいなしていたのだ。

 クラリッタと対をなすような執事風衣装をした青年が無造作に手を振ると、光が生じる。矢を迎撃しているのだ。力を失ったそれは空に霧散する。

 彼の振る手は闇のもやをまとう。光と闇は属性においては効果を打ち消しあう。だが、その次元の話での戦闘はないのは明らかだった。


「私達の……いやこの世界の住人は……、そんなことは期待していないのではないか?」

 クラリッタが弓を掲げたままの姿勢で、話しかけた。

 青年は歩みを止める。

「私達が、貴様らに迎合できないのは、そういう理由だ」

「暴力で得られるものではない、分け与えられるものでもないのだ。素直に帰ってもらえないだろうか?」

 ブルーの眼光と低音の語気は、氷の如き冷たさを備えていた。支配(ドミネート)の効果が自然発生しているかもしれなかった。

「意味なら分からない。僕はそういうことを判断するようにはできていない」

「だから、僕は黙って従うまでだ」

 青年は微笑むと、すっと前方に手刀を構える。

「でなければ、僕は僕を維持できないから!」

「力ずくで参ります。お嬢様っ!」

 クラリッタの周辺に六角状のシールドのようなものが無数に出現した。それらに刻まれた溝は、青緑に明滅していた。

 青年の眼が厳しさを深めた。

 握りこぶしを作ると、黒い長槍が出現する。これもまた、胴部に走る溝が青緑に明滅していた。

 その風格は一品級(レジェンド)の同シリーズに見えた。

 2つの白と黒が交錯した。

 青年が攻、少女が守。

 どこか人の本性を髣髴とさせる戦闘が始まった。

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