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第二話 路地裏戦線異常ナシ

 樹乃下は文学部、泉谷は吹奏楽部に所属している。俺は美術部に1週間ほど入部したが、パソコンで絵を描く俺にはキャンバスは合わず、やめてしまった。

 と、言うわけで俺は今や自由な帰宅部なのである。ちょっと寂しいが……ま、仕方ない。家でイラスト練習に励もう。


 放課後、ほとんどの生徒が部活の活動場所へと向かう中、俺はスタコラサッサと校門を出た。俺の家まで徒歩15分くらい。少し遠いが近道の路地裏を通れば10分ほどで着く。


 路地裏はラーメン屋とコンビニの間を通る通路だ。幅は2メートルほどあるが、汚い道なので俺しか使っていない。たまーに猫が昼寝していることがあるので(邪魔すると申し訳ないから)俺はそっと路地を覗き込んだ。


「!?」


 2つの人影。よく見れば、近くの不良校『鉄鍬高校』の学ランだった。片方は身長がひょろりと高い時代錯誤のリーゼントで、もう片方は横にゴツいスキンヘッド。絵に描いたかのようなヤンキーだった。


「おい、お前。謝るなら今のうちだぜ」

「なんとか言えよオイ」


 2人のヤンキーの間からもう一つの人影が見える。顔はよく見えないが、俺の学校である『春風学院』の制服だった。しかも女子のものである。


「なんとか言えって言ってんだろコラァァ!!」


 スキンヘッドの方が怒鳴った。女の子は怯えて固まってしまっているようだ。とんでもない修羅場に出くわしてしまったらしい。ああ! 俺は早く家に帰りたいだけなのに!! しかし、ここで逃げてしまってはイキリオタクの風上にも置けまい。


「あ、あの……どうかしました?」


 俺はヤンキー達の背後から声をかけた。ゆっくりとヤンキーが振り返る。こ、こわあぁっ! なんとか笑顔を張り付かせる。僕は無害ですよ〜。


「なんだよテメェ」

「男には容赦しねえぞ」


 だめだ。財布の中にはいくら入ってたっけ? どうか利き腕の骨だけは折らないで欲しい――。

 どうやったら被害を最小限に抑えるか考えつつ、そっとヤンキー達の肩越しに女の子に視線を向けた。


「あ」


 そこにいたのは同じ中学の同級生だった。そして、同じ高校のクラスメイトでもある。背中まで伸びた赤い髪の毛に、前髪の間から覗く鋭い目。ひん曲がった口元は彼女が不機嫌な時の証拠だ。


「逃げてください!!」


 咄嗟にそう叫び、近くにいたリーゼントの腕を引っ張る。リーゼントが俺の方によろめいた。


「なにす――


 リーゼントは前につんのめったが、俺に対して文句を言い切ることはなかった。突然スキンヘッドが鼻血を吹き出したから。


 いつのまにか女の子の拳はスキンヘッドの鼻っ柱に叩き込まれていた。『(はじ)ける左手』そう命名され恐れられている彼女の必殺技。中一の時、左手一本で三年の番長を下した話は有名だ。


「お前っ!」


 スキンヘッドが地面に倒れる音で我に帰るリーゼント。なりふり構わず、少女の胸ぐらを掴み上げる。


「ギョッ」


 リーゼントの頭がぐらりと揺れる。『死神の鎌』。要は膝蹴りなのだが、あまりの速さと食らった相手を必ずブラックアウトさせることからその名がついている。リーゼントも例外なく意識を飛ばした。


「…………」

「…………」


 沈黙。彼女は不機嫌そうに俺を見据え、俺は蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くしていた。やばいやばいやばい。『爆ぜる左手』か『死神の鎌』か。それとも『砕ける右手』か『巨人の一撃』か……。ああ、利き腕どころではない。命の心配が必要なのかも。


「アンタ誰だ。アタシの正体を知ってるみたいだが……敵か?」


 おいおいおい! お前は雇われ軍人か! 戦場かここは!


「ぼ、ぼ、僕は春風学院の生徒で! 熊千切さんとは同じクラスで!!」

「あぁ……」


 熊千切黎華が彼女の名だ。「路地裏の赤い悪魔」と恐れられた生きる伝説。倒した相手は数知れず。噂では暴走族を1人で壊滅させたとか、暴力団のブラックリストに載っているとか……。俺の命もここまでか。


「なるほどな」


 ニコッと笑う熊千切さん。その笑顔に少し緊張がほぐれる。どうやら敵認定はされなかったらしい。それにしても、熊千切さんはこうしてみるとめちゃくちゃ美人だ。鋭い目つきはセクシーだし、鼻筋が綺麗な中性的な顔立ちである。


「えへへ」

「は? 何笑ってんだ。ぶっ殺すぞテメェ」

「すいませんでした」


 俺の馬鹿。


「今日見たことは忘れろ。そして今すぐ消えろ」

「はい」


 この不良達は死ぬより辛い目に遭うのかも知れない。だが、許してくれ。僕が間に入ったところで苦しむのが2人から3人に増えるだけだ。俺は華麗なターンを決め、脱兎の如く逃げ出した。


●◯


 息を切らしながら家に帰ると、すぐにパソコンに向かった。イレギュラーな事態に巻き込まれ、結局帰宅に20分もかかった。が、あんなことに巻き込まれて失ったのが5分だけだったのは幸いだろう。

 熊千切さんに言われた通り、忘れよう。クンクン侍さんの作った応募リストを立ち上げる。218名分の応募データが閲覧できた。


「まずは書類選考だよな。活動日数は最低でも週4。対象年齢は……難しいな」


 Vtuberはその性質上、プロフィールはいくらでも誤魔化せる。アイドルのオーディションなら容姿や年齢などで判断できるのかもしれないが、Vtuberにはそれが不要だ。


 だったら何を基準に審査すれば良い? ゲームの腕前?トーク力? どれも簡単に判別がつきそうな要素ではない。


「うーーーーーーーん……」


 218名のプロフィールを眺めながら俺は唸る。どうしよう。どうやったら適切な人を決められるんだ?


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