妹に裏切られ、婚約者をとられた聖女の姉は人間不信となり聖山にて10年引きこもり、心配した幼馴染の紹介で田舎で魔法教師をすることになりました!
『マリエッタ・ブラウン、妹のルーリアをいじめた罪により、婚約破棄をして……』
「うきゃあ!」
「おい、うきゃあとかあんだよマリエッタ、もうすぐ着くぞ」
「え、え、え、殿下は、妹は! どこにいますの?」
「何寝ぼけているんだ? 馬車にいるのはお前と俺だけだ」
私は夢かと冷や汗をハンカチで拭いながら、横にいる幼馴染のシエルを見ます。
相変わらず口が悪い。
「引きこもり聖女などといわれて定年を迎えるなんて……お前、少し怠慢だぞ」
「怠慢って、怠慢ってひどいですわ。悠々自適で聖女生活を送ってましたのに、いきなり殿下が婚約してくれってやってきて、王宮に連れていかれたと思ったら、妹をいじめた罪で婚約破棄で辺境送りって、あなたや神官長様が力を尽くしてくれなかったら、たぶん辺境で死んでましたわよ!」
まくしたてましたが、あ、最近声を出していなかったので、掠れてきましたわ。
シエルが水でも飲めと水筒を差し出してくれました。
「う、う……」
「ゆっくり飲め」
「はい」
私は聖女の定年にあたる28歳までは聖山においてやってくれと神官長が頼んでくれたので、なんとか生き延びることができましたが、人間不信となり、ほぼ引きこもっていました。
ついだあだ名が引きこもり聖女……。
「王妃と陛下に復讐するんだ! とか言ってくれるなよ。隣国の王子とやらがお前を助けてくれるはずもないし、あれは小説の中だけだ」
「わかってますわよ」
婚約破棄された悪役令嬢が元婚約者と裏切った親友に復讐をして隣国の王子と幸せになるという小説を好んで何回も読みましたが。
しかしそんな度胸もなく私は引きこもり。
「定年が終わったお前の就職先を世話してやった俺の顔をつぶすなよ。マリエッタ」
「わかってますわよ」
幼馴染はちょくちょく聖山に顔を出してくれましたが、私はもう人なんて信じない! となっていました。三食昼寝付きの生活をいつまでも送ることができると思うな! とシエルに怒られて……。
このたび辺境伯シエルの領地にある魔法学校の教師となったのです。
「コネを使ったとはいえ、お前の癒しの魔法の素養は本物だ。だからな、教師として推薦した俺の面子をつぶすなよマリエッタ」
「わかってますわよ」
侯爵令嬢であった私にこんな口をきけるのは、まあ彼が私の親戚であるということもありました。
両親が無関心でありすぎたのを心配して、幼いころから世話を焼いてくれたのですわ。
5歳年上なだけですが、迷惑をかけ通しでした。
「……三食昼寝付きさようなら」
「28歳にもなったら、もう嫁にもいけなさそうだし、定年までがんばれ」
「独身のあなたに言われたくないですわ」
「男はまだ結婚できるんだ!」
馬車から降りて、学園を見ます。
ああ小さい、私が昔いた学園より小さい、小学校といってもいいかもしれませんわ。
「辺境の学校だからな」
「小さいとか思ってませんわよ!」
癒しの魔法を教える教師として赴任の形をとっていますが、周りの人はコネだと思っているので容赦なく敵意をぶつけてきます。
人間不信が加速しそうです。
「悪い奴らじゃないから」
「睨まれてますわ」
学長であるシエルに逆らえないのはわかってますけど、気の良いという人はみな嫌なかおをしていますわ。まあそうでしょうね。
自己紹介をして、私の受け持つクラスに案内してもらいましたが……ここでも私は人間不信が加速しそうな感じがしたのです。
「先生、彼氏はいますか!」
「先生、彼氏ってシエル学長?」
「学長と結婚するって本当? 腰掛なんだよね!」
という生徒たちの質問攻めにあい、過呼吸を起こして倒れてしまったのですわ。
「……お前、やっぱり無理か」
「もう少しだけリハビリすべきでしたわ」
医務室に運ばれ、ベッドに寝かされた私。前途多難というか……。
しかしシエルの面子をつぶすわけにはいきませんわ。
「頑張りますわ……だから」
「まあゆっくり頑張れ」
私はシエルの面子のためにも何とか彼らと分かり合いたいと会話を試みましたわ。
だがしかし、同僚は私を無視、他の教師もです。
話しかけてみましたが、敬語でそっけなく返されただけですわ。
生徒たちはこしかけ、こしかけとからかいます。
「……う、うう」
「泣くな、他の仕事を紹介できるか探してやるから!」
「いえ頑張りますわ」
シエルに抱き着いて、とうとう人間不信が加速しそうですと泣いてしまいましたわ。
情けないから妹に裏切られ、気が弱いからいつもいじめられて……。
「人間不信の根幹をなんとかしないとたぶんダメなのですわ!」
「おい、どこからその考えが出てきた!」
「隣国の王子の手助けなど借りずになんとかしてみますわよ!」
私は心の傷をいやす方法という本を見まして、やっぱり10年前のあの出来事をなんとかしないと、人間不信はなおらないと思ったのです。
人と目も合わせられず、どもっているようでは駄目なのですわ。
「……物騒なことはするなよ」
私の微笑みを見たシエルがぼそっと言いますが、でもそれくらいしないとあの妹と殿下は復讐ってことはたぶんわかりませんわ!
私は夏休みを利用して王都に帰ることにしたのですわ。
しかしシエルは恐れるようにこちらを見て、ついてくるといって……今隣にいますわ。
「で、復讐ってどうするんだ?」
「癒しの反対はなんだと思いますか?」
「殺傷か?」
「まあそれに近いですわね。反対に心身を傷つける行為、老化なども可能ですのよ」
「おーい」
私はにやっと笑いました。私、殿下があれを気にされていることを知ってましたの。
あと、妹が自分の美貌が衰えてきたことを気にしているのもね!
「最終兵器と思っていましたが……」
「おい、どうやって仕掛けるんだ?」
「それは……」
私とておいそれと王宮に近づけるなんて思ってませんわ。
しかし、神官長に手を借りて、忍び込むことに成功しましたの。あの方、今の陛下と王妃にかなり嫌な目にあわされているのでね……。
10年引きこもっているうちに私は聖女の力の使い方の悪用のやり方を発見していましたのよ。
私は眠りの魔法をかけて、二人の部屋に忍び込み、ある部分に魔法をかけたのでした。
シエルがやるならもっと早くやっておけよと言いましたが、だってこれに気が付いたのが半年前でしたのよ!
「……あー、すっきりしましたわ」
「引きこもり聖女のせいにされないうちにすぐ帰るぞ」
「はーい」
陛下の髪がとうとう無くなり、王妃が一夜にして髪が真っ白になり、しわだらけのしみだらけになったということを聞いて、やりましたわと私は復讐を終えたことに少し満足しました。
両親にも復讐をしませんと!
「どうしてもっと早く行動しなかった?」
「半年前にこれに気が付いて、どうやったら復讐に使えるか考えていたら年月がたってまして」
「……相変わらずとろいやつ」
「隣国の王子の手を借りなくてもなんとかはなりましたわよ」
馬車の中で私はシエルに笑いかけます。
何をするのもとろいと言われていましたが、やっぱり血のつながった妹ですし、お姉さまばかりずるーいと言われてものを取られた記憶しかありませんが、この復讐方法をとることは迷ってましたのよ。
「なんで今更復讐を?」
「引きこもっているときは、まだ耐えられたのですが、やっぱり人間不信の根幹を根絶しないと、これからの人生生きていけないかなと」
「……」
「一応考えてますのよ」
「そうか」
頭を抱えるシエル。そして私の目をまっすぐに見て、何度目か忘れたが……と言います。
「俺が好きなのはお前だマリエッタ、結婚してくれ」
「……冗談を言うのはやめにしてくださいまし、お前なんか大嫌いだ。って言ったのは忘れてませんわ」
15年前にお前なんて大嫌いだといわれたのは忘れませんわ。
でもあれは照れ隠しだ! とシエルが言います。
いえ、告白を断られたことは忘れられませんわ。心の傷をいやすために聖山に行ったのですもの私。
「責任は感じている」
「責任をとって結婚しようというのですね」
「違う!」
「お断りしますわ」
責任をとりたいといってずっと聖山にやってきて求婚してきたシエル。
でももうだまされませんわ! 幼い時から彼のウソにせいでひどい目にあってきたものですし。
「教師生活をなんとか送って見せますわ!」
「……就職したいからというから紹介したが……」
私はシエルに頑張りますからと声をかけると、どうしたら信じてもらえるんだとシエルはため息をついて、こちらを見たのでありました。
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