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その名は団長殺しの聖女・3


 それからしばらくは、平和な日々が続いた。

 とはいえ、アーレスに抱かれた翌日は、料理も出来ないくらい疲れ果てていて、厨房にも立てない日がある。

 屋敷のみんなは子供を除いて、主人夫婦に進展があったことに気づいているので、生暖かいまなざしを送っている。

 いずみとしては恥ずかしくて仕方ない。


 そんなある日、エイダとフレデリックが遊びにやって来た。


「イズミ様、お元気ですか?」


 最初は恐縮していたエイダだが、いずみが喜んで迎え入れると、ホッとした様子だ。


「ええ。エイダさんに会えてうれしいです。……でも、何であなたがいるんです? フレデリックさん」


 もろもろの諸悪の根源であるフレデリックに、思わず冷たい目を向けてしまう。


「俺、今日非番なんですよ」


 それは訪問の理由にはならない。いずみはエイダを軽く扱った彼を許してはいないのだ。


「エイダさん……」


「もういいんです。イズミ様。アーレス様にぼっこぼこにしてもらったらスッキリしちゃって。今、私達友達なんですよ。思えば、貴族なのにこんなに親しくしてくれる人って貴重ですもん。ね、フレデリック」


「そうそう。そうなんですよ」


 相変わらず調子がいい。いずみにはまだ不満があるが、本人が許しているのに脇からごちゃごちゃいうことでもない。大人しく黙ることにした。


 いずみは日の当たる部屋にふたりを通し、アーレスの夜のおやつ用に焼いたジンジャークッキーでもてなす。


「それにしても、最近の団長は凄いですよ。俺たちもだいぶ体力がついたなって思ってたんですけど、団長には全くかないません。俺たちが数人で向かっていってもかなわないのですから」


「まあ、アーレス様は規格外ですから。同じように戦えなくてもいいと思います。頑張っているんですね、フレデリックさん」


「ええ、もちろん。……ところで、イズミ様、最近、アーレス様との仲はどうですか?」


「やめなさいよ、フレデリック」


 ポロリとこぼしたフレデリックを、たしなめるようにエイダが叱る。その様子が少し不思議に思えた。


「……順調だけど、なに?」


「いや、先日、騎士団に団長に用があると言って女性が訪ねてきたんです。そんなこと珍しいから、俺、ちょっと気になっちゃって」


 なにせ、団長とイズミ様は俺の理想ですから、と続けるフレデリックも、少しばかり疑いを持っているようだった。


(……女性?)


 たしかに胸がざわつく案件だ。

 だけど、アーレスとの仲は今は順調すぎるほど順調だ。

 アーレスはベッドに入ると浴びるほどの愛の言葉をささやいてくる。普段口下手なくせに、そういうところだけは上手なのはなんなのか。さすがはグレイス様の弟と思えばいいのか。


「でもアーレス様が浮気をするとは考えられないので、お仕事じゃないんですか」


「そうよ。あの団長様がそんなことするわけないでしょう。あんたじゃあるまいし」


「だよなぁ……。でも俺たちの仕事で女性が来ることなんてほとんどないんだよなぁ」


 叱られているというのにフレデリックには大して堪えた様子がない。


「心配してくれてありがとう。でもきっと大丈夫です」


 いずみが笑って言うと、エイダが気を使ってくれたのか話題を変えてくれた。


「ねぇ。イズミ様。私ね、新しいレシピを考えてみたんです」


「へぇ。聞かせて?」


 エイダとは一緒にレシピ考案を、フレデリックからは騎士団の情報をといずみの毎日は充実しつつある。


 そんな中、オスカー王から和食を作るようにとの命令が届いた。

 世間話のついでにした、和食の話を彼は忘れてはいなかったようだ。


 国王に一伯爵家にお越しいただくわけにもいかないので、城の調理場を借りて作ることになる。

 いずみひとりでは調理ができないのでジョナスと一緒に行くのだ。いずみとしては、ここで米の生産を後押ししたい。ついでにショウガも。


 約束の日まで、いずみはジョナスとともにメニューを考えた。

 その結果、作るのは白米とお味噌汁。生姜焼きとサラダとなった。飲み物として、ジンジャーエールもつける。


「頑張ろうね、ジョナス!」


「もちろんでさぁ」


 張り切って準備万端整える。

 その日は、アーレスも休みを取って一緒に来てくれるというのでますます心強さを感じた。



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