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味噌と醤油を求めて・2


「いいわ。こういうものは子供に聞いてみればいいのよ。アメリとハッセを呼んできて」


 勉強時間だった子供たちは、奥さまのお呼びでサボれると浮かれた様子で、厨房に顔を出した。


「イズミ様、なーに?」


「アメリ、これを見て。どう?」


「わあ、かわいい!」


 アメリの反応はおおむね予想通りだったのだが、ハッセの方はジョナスに似たのか冷たい。


「なにこれ、小屋?」


「小屋じゃないよっ、お菓子の家よ」


「だって色も一色だしどうにも馬小屋っぽいっていうか」


 親子そろって同じ発想だった。思わず殺気立つイズミに、割って入ったのが母親のスカーレットだ。


「サイズが分からないのも問題なんじゃないですか? 例えば、クッキーで人形を作ってみれば、誰も馬の小屋だなんて思いませんよ」


「すごい、スカーレットさん、さすが!」


 言われた通りに、クッキー生地をジンジャーマンの形に切る。ナイフで切るのはやはりちょっと難しい。今回は仕方がないけれど、金属加工人に頼んで、型を作ってもらわないとならないだろう。

 切り終わったそれを見て、アメリは「お人形さんだー」と喜んでくれた。

 他にもクマの形や猫の形に切り抜き、焼くのはジョナスに任せる。


 焼いている間にスカーレットが、カラフルなチョコレートを持ってきた。


「リドルさんが隠し持っていたので、もらってきました」


 なんと、日本では珍しかったルビーチョコレートだ。

 色は苺チョコのようなピンク色。着色料を入れたわけではなく、天然でその色合いで、若干のベリー風味がある。

 その代わり、茶色のチョコレート特有の香ばしさはない。


「こちらを使って飾ってみてはいかがですか? 色合いが鮮やかになりますし」


「うん! ありがとう」


 アイシングの白と、ルビーチョコレートのピンクがあれば、見映えがするだろう。屋根にアイシングで模様を描き、チョコを溶かしてスプーンで塗っていくと、ずいぶんと華やかになった。


「ここにピンク入れると可愛いですわ」


 なにより、スカーレットの指摘がいちいちもっともなのだ。


(これってもしかして、私にはないセンスってやつなんじゃない?)


 調理するのにどうしても必要な機材を望む通りに扱ってくれるジョナスと、盛り付け飾りつけのセンスのあるスカーレット。


(この夫婦がいてくれるなら、もっといろいろなことができるかもしれない)


 胸の奥に、ワクワクが湧き上がってきて興奮してくる。

 やがて完成したお菓子の家を前に、アンリとハッセは目をキラキラさせていた。


「星形のクッキーを入れてもいいよ。おもちゃ箱みたいじゃん」


「窓があったらいいんじゃない?」


 アンリの提案に、いずみも頷く。たしかに、窓がないから、小屋っぽさが増すのかもしれない。

 でもどうせ窓を作るなら、ちゃんとガラスっぽくしたいから……。


「ジョナスさん、飴ってあります?」


「もちろん、あるよ」


 飴やキャラメルは、長期間の旅をするときの栄養補給にと昔からつくられているらしく、割といろいろな種類がある。

 それこそ、花の色素で色付けしたようなきれいなものも。


「この飴を溶かして、クッキーに穴を開けた部分に注ぎたいんです。そして固まれば窓みたいになりません?」


「ほう?」


 再び改良版のパーツを作る。生地を成形するところまでをいずみがやり、ジョナスが焼き、組み立てをいずみとスカーレットで行った。

 そうして出来上がったもう一つのお菓子の家は、格段のかわいさだ。


「かわいい! 欲しい」


「俺も俺も」


 子どもたちも今度は前のめりである。


「じゃあこの馬小屋みたいなほうはみんなで味見にしましょうか」


「奥様、ついに自分で小屋って言っちまったなぁ」


 皆が笑い出し、いずみも思わず声を立てて笑ってしまった。


 お土産も決まり、一安心。三日後はついに、バンフィールド伯爵家へと向かうのである。


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