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19 魔術のレッスン 2



 そしていよいよ結婚式まであと二週間。準備は着々と進んでいる。アイナのドレスもでき上がり、最後の仕上げに入っていた。


「アイナ様、この辺きつくないですか?」


「大丈夫よマーサ。だけどあと半月、このウエストを維持しないといけないわね」


「ブルーのドレス、大変お似合いです、アイナ様」


「ありがとうエレン! でも本当はあなたの金髪のほうがこのドレスに映えると思うわ」


「いえ、私の正装は軍服ですから。このようなドレスを着ることはきっとないでしょう」


「そうなの? 勿体ないわ。ドレスを着てダグラスと並ぶとすごくお似合いだと思うんだけど」


 エレンはほんの少しだけ頬を赤らめたが、すぐに咳払いをして誤魔化した。


「それが終わりましたら、レッスンいたしましょう。今日は、コウ様も一緒に」


「コウも?」


「はい。火を使った魔術をやってみようかと」


 

 フィッティングが終わり、動きやすい服装に着替えたアイナとエレン、コウ、そしてアレスは王宮の裏にある馬場に来ていた。


「室内で火の魔術は使えませんからね」


 アイナはこの馬場で週に一度、乗馬のレッスンを受けている。かなり広い場所だから、魔術の練習には良さそうだ。


「ただ、まことに申し訳ありませんが、私は火の魔術が使えませんので教えることができません。これは紅龍の加護を持つ方しかできないことなのです。ですからコウ様と、指導役としてアレス様にも来ていただきました」


 頷きながら聞いていたアレスが、エレンに尋ねた。


「エレン、アイナ様はもう手のひらに魔力を集めることはできるようになりましたか?」


「はい、アレス様。まだ少し時間がかかりますが、充分お出来になります」


「そうですか。ならば簡単です」


 アレスはアイナのほうに身体を向けた。


「アイナ様、利き手ではないほうの手のひらに魔力を集めて下さい」


「わかったわ」


 アイナは皆に見られながらということに緊張していたが、集中してイメージを高めていった。身体中を巡っている魔力を意識して手のひらに集める。そのイメージを高めていくと、だんだんと温かく感じるようになる。


「手のひらを上に向け、『火よ、我に力を』と詠唱してみて下さい」


「……火よ。我に力を」


 するとアイナの左手の上に、ポッと小さな火が灯った。


「えっ⁈ 火が! アレス、できたわ!」


「よくできました、アイナ様。それでは利き手で自分の飛ばしたい方向へ向けて火を放って下さい」


「こうかしら……?」


 アイナが右手の人差し指を右方向へ弾くと、火がそちらへふわふわと飛んで行った。


「あっ! 大変、芝生が燃えちゃう!」


「大丈夫です」


 アレスが、ちゃんと水幕を用意しており、火はそこに当たって消えた。


「ああ、良かった……小さい火でも、火事になったら大変だもの」


 アレスはにっこり笑うと後ろに下がり、コウと交替した。


「ではコウ、後は任せます」


「はーい。アイナっち、手のひらの火をさあ、丸いボールにするイメージを思い浮かべて」


「ええ? うーーんと……はい、思い浮かべました」


 小さな小さな火だけれど、これを丸く、ボールのように。集中してイメージしていくと、くにゃりと火の形が変わって小さな球になった。


「ほら、炎がまん丸になったでしょう? それ、火球だからね。それを右手で握ってー、敵に向かってー、投げる!」


 コウが身体全体を使ってブンと腕を振り、遠くへ投げる真似をした。


「ちょ、ちょっと待って! これ、熱くないの?」


「大丈夫だよ。アイナっちには熱く感じないはず」


 恐る恐る、アイナは火球を持ってみた。確かに、熱くは感じない。普通のボールのように持つことができた。これなら、投げることができるだろう。

 

「よーし、これを敵へ……えいっ!」


 アイナは思い切って手を伸ばし投げてみた。すると火球は勢いよくパシッと音を立ててほぼ垂直に落ちた。つまりアイナの足元、スカートの裾がすぐ近くにある。


「危ないっ」


 アレスが急いで球に水をかけて火を消す。ジューという音と共に、少しだけ芝の焦げた匂いがした。

 あまりのことに、全員がシーンとしてしまった。何か言って欲しいのに、誰も何も喋ってくれない。アイナは恥ずかしくて顔が火球のように赤くなり、アハハ、と乾いた笑いで誤魔化しながら言い訳をした。


「私、そういえばボール投げるの苦手だったわ……」


 するとコウがプッ、と吹き出して、アイナ下手すぎ! と言った。


「これは、ボール投げの練習のほうが先だな!」


 コウのセリフで、アレスもエレンもやっと笑ってくれた。真面目な二人はアイナの失敗を笑ってもいいのかどうか、戸惑っていたのだろう。


(コウがいてくれてよかった。でも、うう、なんだか子供扱いされているわ……)


 小さい子を慰めるように、コウがアイナの頭をずっと撫でてくれているのだ。


「慣れてきたら自在に操れるようになるよ。もっと大きな火球も出せるかも。まだまだ練習が必要だけどね」


「練習する時には私が付き添いますから声を掛けてくださいね、アイナ様。火事になったら困りますからね」


「もちろんよ、アレス。絶対に声掛けるわ。王宮を燃やしちゃったらとても弁償できないもん」


 四人は声を出して笑った。




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