表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/72

海辺での食事

 ショッピングセンターの中には独立した店舗を持つ飲食店と、テーブルや椅子を共用して料理だけを出すフードコート形式の店の二種類があった。また、大阪名物と言われる老舗の支店が並ぶエリアもあって、その選択肢の多さにシュウとクリスは驚いた。

 とは言え、大阪名物の老舗が並ぶところは殆どが自宅の近くに本店や支店がある店ばかりなので、ここで無理して食べるものではないとシュウは感じた。シュウとしては、元祖オムライスの店は本店の座敷で食べるのをクリスに経験してもらいたいし、混ぜカレーの店はクリスにあの辛さは厳しいと昨日素通りしてしたばかりである。また、お好み焼きは昨日の夕食だったので除外だ。

 店舗として独立したスペースがある店はファミリー向けな店が多く、フードコートにはファストフード系の店が多くなる。

 修行時代の休みの日を除いて、基本的に食事といえば賄いが中心であったシュウはファストフードというものを殆ど食べたことがない。何がオススメかと尋ねられても、いい答えが浮かぶ店がそこにないのだ。

 すると、クリスは窓の外を見つめていた。明らかに対岸が見えてはいるが、その岸壁は海へと繋がっている。


「ねぇ、窓の外にも食台と椅子があるんだから、外で食べられるものがいいと思わない?」


 クリスはいいことを思いついたとばかりに楽しそうにシュウに話しかけた。


「お、いいね。となると……」


 海辺で食べやすい簡単な料理となると、ファストフードの定番ともいえるハンバーガーの店をシュウは思い浮かべる。フードコートを見渡せば、ハンバーガーの店と、オーダーメイドできるサンドイッチの店があった。


 シュウもシステムをよく解っていないサンドイッチの店は、メインの具材をサンプルから選んで、パンの種類や追加の食材、野菜、ドレッシングなどを選ぶスタイルの店だ。一方のハンバーガーの店であれば写真を見て、「コレ」と指すだけでオーダーができる。

 そう考えると、まだ日本語以外の言葉がわからないクリスにとって、サンドイッチの店はハードルが高いだろうとシュウは判断した。


「こっちの店にしよう」


 シュウはクリスの手を引いて、ハンバーガーの店頭へと進んでいった。


 店頭にはオススメの商品が写真付きで大きく貼り出されていて、他のメニューは文字で書かれている。この店はハンバーガー以外にパスタなどもあってメニューはかなり充実している。


「いらっしゃいませ、店内でお召し上がりでよろしいですか?」


 カウンター前まで進んだシュウとクリスに店員が声を掛けた。


「ああ、オレはこれにこれのセット。クリスはどうする?」

「わぁ、いろいろあって迷っちゃうけど……コレかな。あとコレ」


 シュウは店の名前がついたハンバーガーのパティ二枚のものにチリとポテトのセット、クリスはそのパティが一枚のものにポテトのMサイズセットを選んだ。


「ドリンクはどれになさいますか?」

「コーラで!」


 シュウは即答するのだが、クリスにはそこまで説明ができていないので急ぎクリスに説明する。メニューを見ても数字以外の文字は読めないのだ。


「飲み物はどれにする? オレと同じにするか、コーヒーや紅茶もあるぞ?」

「うーん……」


 クリスはメニューを見ながら少し悩むように首を傾げると、メニューを指してシュウに尋ねる。


「これはなぁに?」

「あ、レモネードはレモンという酸っぱい柑橘の果汁に蜂蜜を入れて水で割ったもの……かな?」

「それにするわ」


 そのやり取りを聞いていた店員が注文を確認すると、シュウは内容に間違いがないと頷き、支払いを済ませる。

 注文からしばらく待たされるが、店員から番号で呼び出されて料理を受け取ると、船着き場に出るための扉を開き、空いているテーブル席に座った。


「ねぇねぇ、この食べ物の名前は何ていうの?」


 席に着くなり、クリスがシュウに尋ねる。

 たくさんあるメニューの中で自分が選んだ食べ物の名前も読めなかったし、他の料理も全く読むことができなかったのである。それは気になるのも仕方がない。


「えっと、パンに挟んだものをサンドイッチと呼ぶんだが、特にこのパティを挟むものをハンバーガーというんだ。中に挟むものや店によって名前が違うから、絶対にこれという名前はないんだけどね」


 ゴクリと音をたててコーラを飲み込むと、シュウは最初にチリポテトに手をつける。


「これはジャガイモを揚げたものに、酸っぱくて辛いソースをかけたもの。

 ――メキシコという国があって、その国の料理をアメリカという国の人が真似て作ったソース……かな?」

「へぇ、確かに酸っぱそうな匂いがするわね」


 海辺の潮臭さはかなりのものなのだが、普通に座ってポテトを齧っているクリスにまで匂いが届くほど、独特の酸っぱ辛いソースの香りはきつい。


「でも、このハンバーガーというのは大きいわ。どうして食べればいいの?」


 クリスは小顔である。そして、そのサイズに合った大きさの口をしているのだから、いろいろと挟まったハンバーガーを食べるとなると、初めてではどうすればいいのか判らなくなるのも道理だ。

 見るからに顎が外れそうな程の大きさのハンバーガーを見ると、クリスは困り顔でシュウに食べ方を尋ねた。


「そうだなぁ、そのまま潰して食べるのがいいと思う。こんな感じで……」


 シュウは佐世保バーガーが流行った時代に教わった食べ方を見せる。とにかく、ハンバーガーそのものをギュッと潰して、齧り付いたのだ。

 当然だが、中に入っているソースなどが横からはみ出て唇の横についてしまう。

 だが、シュウは気にせずもぐもぐと口を動かしている。


「豪快ね……でも女の子には厳しい食べ方だわ」


 少し呆れたようにシュウの食べ方を見ていたクリスは、思ったことを口にした。

 確かに、口紅や頬周りの化粧まで落ちてしまうことを考えると、女子としては躊躇われる食べ方といえる。

 ごくりと音を立てて口の中に入れたものを飲み込んだシュウは、少しやりすぎたかと反省しつつ、クリスに話す。


「いや、オレみたいに大口開けなくてもクリスの分は小さいし、少しずつ齧りつけばいいだけのことだろう?」

「ま、まあそうね……とにかくやってみるね」


 クリスはギュッとハンバーガーを上から押さえて潰すと、紙の包装を剥がしてその小さな口で齧りつく。

 シュウのハンバーガーはパティが二枚あったが、クリスの分は一枚なのでなんとか口の中に収まるようだ。ただ、齧った量は少しだけで、シュウが食べた時のように横からソースが溢れ出すようなことはない。

 それでも、バンズや野菜、パティはしっかりと口の中に入っていたようで、クリスはもぐもぐと口を動かす。


「ほら、できるだろう?」


 クリスが飲み込む前にシュウが問いかけると、クリスはこくこくと首を縦に振って頷いてみせ、「ごくり」と飲み込むとレモネードで口の中を再度湿らせてから初めて食べるハンバーガーの感想を述べる。


「ふぅ、顎が疲れるわ。普段は開けない大きさまで口を開いたんだから、当たり前なのかな……」


 クリスはまたフライドポテトを何度か齧るように口の中に運んでいく。

 その動きはまるで小動物のようで可愛らしい。


「工場で作った食材を焼いて挟んで出すだけの料理だからなあ、味もまぁ可もなく不可もなくといった感じだが、ボリュームはしっかりあるな」


 そう言うと、シュウもまた自分のハンバーガーに齧りついた。

 クリスも無言で二度ほど頷くと、自分のハンバーガーに齧りついて海の向こうを眺めている。


「ところでシュウさん、向こう側にある建物はなぁに?」


 クリスは気になっているであろう施設を指してシュウに尋ねた。

 シュウは目を凝らしてじっと見つめると、そこが映画配給会社の提供するテーマパークであることを思い出した。


「日本だけじゃないんだが、映画という娯楽があるんだ。まぁ、昨日見ていたテレビみたいなものなんだが……その映画を作る会社が、その映画を主題にしたいろんな遊具のある遊園地みたいなところだよ。いろいろと映画を見てから、行くと楽しめると思うよ」

「映画の世界を再現した場所っていうことかしら? だったら先にその映画というものを見たほうが楽しいでしょうね」


 日本に来たばかりのクリスも、映画のテーマパークには興味を持ったようで、シュウはそこで楽しめる映画のことを話す。


人食い鮫の映画(ジョーズ)正義の蜘蛛男の映画(スパイダーマン)に、|恐竜が現代に復活する映画ジュラシックパーク……」

「え? 地球には恐竜はいないの?」


 クリスがとても不思議そうに尋ねたので、シュウはクリスの世界にも恐竜がいた時期があったとしたら、やはり似たような進化の歴史があったのだろうと思い、クリスのいた世界というものに思いを馳せつつ答えを返す。


「ああ、数万年前に滅んだんだ。たしか、隕石が落ちたのが原因だろうって言われてるよ」

「わたしの世界には恐竜はいるわ。といっても、南の方の島だけだから見たことがないんだけどねって、シュウさんどうかしたの?」


 シュウはポロリとハンバーガーをトレイの上に落とし、唖然とした顔でクリスを見つめていた。

 魔法が存在する世界なのだから、他にも違いがあるだろうと考えていたシュウであったが、流石に恐竜がまだ存在する世界であるとは思っていなかった。

 その世界感の違いの再整理をする時間が必要だったようではあるが、思考を再起動することで現実世界にシュウは戻る。


 そして、残ったハンバーガーやポテトなどを摘みながら、対岸にある映画会社のテーマパークの説明を再開した。


初稿:2020年2月14日


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


今回はファストフードですので、料理の味などの表現はできるだけ控えさせていただきました。


次回投稿は 2020年2月15日 12:00 を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ