表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔術屋のお戯れ

嫉妬と許容範囲

作者: 神無 乃愛

嫉妬深いはずの紅蓮が葛葉の服に文句を言わない理由。誤解されるかもしれないのに夏姫に服を買う葛葉と紅蓮。その理由をかいた短編です

 事の起こりは、葛葉(くずは)が中学校に入学したころに遡る。



 周辺でも評判の制服に身を包んだ葛葉は、父方の祖母が「紅蓮(ぐれん)にも写真を送ってやれ」と言ったことで、写メを送信した。


 そしてそれを見た紅蓮が、携帯を握力のみで潰しそうになったのを、親友二人がかりで止めたのだ。


「……おいおい、何やってんだよ」

「葛葉が……」

「? お前の婚約者の葛葉ちゃんがどうしたって?」

「制服着て! 笑ってた!」

 それのどこに不機嫌になる要素があるのか、全く分からない。そう思って顔を見合わせてしまった。

「足が出過ぎだ! 鎖骨が見えそうだ!」

 言いがかりも甚だしい。そう思いながらも、親友の一人、啓治(けいじ)は宥めることにしたのだが。

「つまりロングスカート、ブレザーがいいってわけ?」

「それだと風が吹いた時にめくれるだろうが」

「じゃあ、パンツスーツみたいな?」

「身体のラインがまるわかりだ」

「じゃあ、和装か?」

「うなじが見えるだろうが」

「もう、ビジャブか!? それともすっぽり頭から足まで被るやつがいいのか!?」

 ここまで言われたら啓治も半ギレでになるな、ともう一人の親友布人(ふひと)は思いながら黙って聞いていたのだが。

「ビジャブだと顔が見えるだろうが! 頭からかぶったら何も見えないだろうが!!」

「じゃあ、なにがいいんだよ!?」

 二人揃って切れたのは悪くないはずである。



 当然その話は紅蓮の父親、樹杏(じゅあん)の耳にも入るわけで。

「すまんな。その辺りを教育するのをすっかり忘れていた」

「……はぃ?」

 思わず怪訝そうな声を出してしまったのは啓治で。布人は声すら出せなかった。

「俺自身が服に頓着がないせいか、いつも花蓮(かれん)が決めてくれるものでな」

「いや、それと紅蓮の発言は関係ないっしょ」

「これがある。紅蓮の独占欲と執着心は花蓮譲りだ。俺が当たり前に受けて止めているから、紅蓮はそれが当たり前だと思っている節がある」

「それにしたってどんな服も駄目って……」

「花蓮も似たようなことがあったぞ。ブラックスーツも相手が俺を見るから駄目。ラフな格好は俺の身体のラインが見えるから駄目。あとは何かあったか?」

 そのまま後ろにいる秘書に聞くのは如何なものか。

「そうですねぇ。白いワイシャツは肌の色が透けるのでNGですとか、髪型も短すぎず長すぎずですとか、スーツパンツもフィットしすぎると身体のラインが見えるですとか、ゆったりしたものですと樹杏様のいいところが見えないですとか……」

「も……もういいっす」

 まだ続きそうな内容に、啓治が白旗をあげた。


 そんな独占欲からどうやって解放されたのか、そう訊ねたのは布人だったが。

「着ていく服がないというのが問題だと花蓮には言ったな。だから頭からつま先までお前がコーディネートしろと言っただけだ」

「それで納得したんですか?」

「したというか、させた。俺は元々頓着しないんだから、お前が決めればいい。俺はそれしか着ないし、俺の服関連の評判はお前にかかっているといったまでだ」


 とどのつまりは。

「評判に関わるような服以外なら何してもいいって言ったんすか?」

 やっと立ち直った啓治がたずねていた。

「早い話がな。花蓮の見立てに間違いはないし。盗聴器やGPSがつけられるくらい文句言われるよりも可愛いものだからな」

 違うっしょ。その言葉は出てこなかった。


「お前らが気にして直談判に来たということは、紅蓮に直接言い聞かせる必要があるな、冬太(とうた)

「そうですねぇ。俺も当たり前になりすぎてましてすっかり忘れておりました」

「忘れるところじゃないですよね!?」

「すまん。葛葉に言う前に阻止できたから良しとしてくれ。

 ……そうだな。葛葉に頼まれたとき以外服・装飾品は買うな、服装に口を出すなとだけ言っておくか」

「まずはそこですね」


 ……かくして葛葉が被害から逃れたわけだが。



夏姫(なつき)さんっ!! 次はこの服を!! 兄様とわたしのセレクトですわ!」

「断るっ!!」

 まさか白銀の呪術師の弟子が被害を被るとは思ってもいなかった。そして、止めるにも白銀の呪術師が悪ノリをしているため、抑止力は低い。



「……紅蓮の好きにさせておけばよかったのか?」

 この騒ぎを見た樹杏は思わず呟いたのだが。それを聞きつけた冬太はくすりと笑い、こう言い放った。

「それをしたら、今頃紅蓮様は婚約破棄をされておりますよ」

 そこが問題なのである。


ビジャブ……アラビア語で「覆うもの」を意味する名詞。ヒジャーブ、ペルシア語ではヘジャブとも。欧米諸国や、日本のメディアではムスリム(イスラーム教徒)の女性が頭や身体を覆う布を指して使われることが多い。


Wikipediaより

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ