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好奇心  作者: sandalwood
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謎の男

  僕が座っている場所の向かいは、通路をはさんで機械や乗り物に関する本が並ぶコーナーで、右の棚には機械・環境関連、左の棚には乗り物関連の書籍がびっしりある。


 この図書館の児童書コーナーは前にひと通りまわって見物したけど、基本的に学校の図書室のほうが品ぞろえが良い。しかも置いてある本はひどく色あせていたり、ページの一部が破けていたり、もしくは何か飲み物をこぼしたような跡がくっきりと残っていたりして、お世辞にも状態が良いとは言えない。

 学校の本は司書の人がしっかり管理してくれているおかげで、コンディションの良い本が多い。僕は、だからこの図書館で自習するのは好きだけど、ここで本を借りることはほとんどない。

 

 でも不思議なことに、乗り物関連のコーナーだけは異彩を放っていた。 

 本の状態の悪さは他と変わらないのに、なぜだかこのたぐいの本だけやたら充実しているんだ。

 園児から小学生向けのものはもちろん、中には大人が読んでも楽しめそうな、なぜこのフロアに置いてあるのか疑問に感じるような高度な内容の本もある。それだけ需要があるということなのか、それともこの図書館を管理している人の趣味なのかはわからないけれど、この棚だけ妙に手厚い恩恵を受けていることは子どもの僕が見ても明らかだった。

 

 その男は本棚と本棚の間の通り道で、まるで自分の家のリビングにいるかのようなくつろぎスタイルで寝そべっていた。

 僕がきもをつぶしたのは、床にそんな格好で横になっていたことよりも——まあそれにもびっくりはしたんだけど——、彼がどう見ても大人の男だったことだ。三十代半ばか、あるいは四十過ぎているぐらいか、ともかくわけがわからなかった。いい大人が児童書コーナーに一人で居るだけでも珍しいというのに、いったい全体どういうことだろう。彼の顔を見ると、でもなんだかとても愉快そうに見えた。 

 

 距離があるので詳細はつかめないものの、左の棚のあたりに何冊か並べているから、どうやら例の乗り物関連の本を読んでいるみたいだ。本を見ながらなにかぶつぶつ言っていて、でもここからではちょっと聞き取れない。

 どう見ても常軌を逸しているから、関わらずにこの場を離れるのが安全なのはわかっている。でも、僕は彼がなんて言っているのか、なにをそんなに楽しそうにしているのか気になってしまい、いつしかそれなりに迫っていた尿意も忘れていた。

 今さっきやってきた親子やこのフロアの職員も、なにか異様な生物でも見るかのような視線を彼に向けている。向けてはいるけれど、誰も近付こうとはしなかった。


 僕はどうしても彼のことを知りたくなって、矢も盾もたまらず接近を決意した。

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