机
図書館に入って一階の一般書コーナーを素通りし、二階の児童室に上がった。
児童室に置かれている数多くの子ども向けの本に興味はないけれど、僕はこの部屋の机が好きなんだ。木製の長机はふれるとひんやりして、また木製ならではのなめらかさも手に心地よい。
不特定多数の子どもたちが使うから、ところどころに傷がついていたり色褪せていたりもするけど、それもまたいとをかし、なんてね。
その健康的な色合いから、図書館なのに、なんとなく自然の中で勉強しているような気分にさえなる。子どもひとりが座るのにちょうどいいサイズの――同じく木製の――丸椅子も座り心地は申し分ない。これで背もたれがあれば満点だったかな。
自習スペースなら三階や地下一階にもあるものの、あのへんにはいつも暇そうな大人たちがたくさんいて、なんだか落ち着かない。それに、中高年の加齢臭も結構きつい。
それと比べて児童室はいつも空いていて、日によっては――今日もそうだけど――僕しか座っていないこともある。
健康で春秋に富む小学生は、都筑たちのようにおもてに出てドッジボールやサッカーでもして身体を動かすほうが自然だし、僕が住んでいる市は決して学力の高い部類ではない。放課後、塾もない日にこうして図書館で自習するような利口ぶった子どもはあんまりいないようだ。
椅子に座って志望校の過去問を開き、国語の問題に取りかかる。塾では苦手な算数と理科を受講していて、ここでの自習は主に国語と社会の二科目だ。
ガラパゴス携帯で時間を計りながら、文章題に専念する。少し離れた場所で母親と一緒に絵本を探している園児の笑い声も、次第に耳からすべり落ちていった。
「よしっ、できた」
目標タイムよりも五分早く解答し終え、身体を起こして天井をあおぐ。今日はなかなか快調だ。
答え合わせをする前にいったん用を足そうと正面を向いたとき、僕の両目は奇妙なものをとらえた。