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真空のなかのドレス  作者: 織野 帆里
四季の外縁
22/45

22.わすれもの

 ☆


 隣の銀河を漂っていたぼくは、やけに近い音を聞いた。


 見渡すかぎり、星は光年の彼方にあり、半径何万キロに渡って小惑星のひとつも漂っていない、限りない静寂のなかで、まるでぼくの隣に寄り添うような近い気配を感じた。

 

 何だろう? ぼくは目を開ける。

 そう、目を閉じていたようだ。いつの間にか。


 雪のような、羽のような白が舞い降りた。


 おや、と思う。


 宇宙を満たす闇に漂っていたのに、光に包まれている。

 ここはどこだろう?


 そして、ぼくの隣にいる存在を見た。


 ☆

 

 その瞳の中に、ぼくが漂っていた全ての宇宙が内包されていた。

 彼女の白いドレスは、まるで天使が纏う服のようで。


 そしてぼくは、永遠に忘れないだろう光景を見た。


 瞳に満たされた宇宙が揺らいで、清浄な一粒の雫になり、こぼれ落ちるのを見た。


 それは幻聴なのか、軽やかな音がして、まるいガラスの破片になる。

 

「忘れていかないでください」


 と、何かを握りしめていたぼくの右手を開かせて、別のものを掴ませる。

 ぼくはその手のひらを見る。

 身体は疾うに失ったものと思っていたけれど、くすんで汚れたぼくの手が確かにあった。そこに、何か輝くものが乗っている。


 三日月よりもさらに細い、月のモチーフ。


 光を反射して輝き出す。


 その光がぼくの目に刺さったとき、ぼくは思い出した。


 彼女がいて、あの人がいないこの街。

 生きている人がいて、もう帰らない人がいる、この地球という場所。

 どうしようもない星に、ぼくは未だ、そこにいた。


 彼女はぼくの顔を見て、首を傾げる。


「さて、これからどうしますか?」と、綺麗な発音で尋ねられた。


 ☆

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