22.わすれもの
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隣の銀河を漂っていたぼくは、やけに近い音を聞いた。
見渡すかぎり、星は光年の彼方にあり、半径何万キロに渡って小惑星のひとつも漂っていない、限りない静寂のなかで、まるでぼくの隣に寄り添うような近い気配を感じた。
何だろう? ぼくは目を開ける。
そう、目を閉じていたようだ。いつの間にか。
雪のような、羽のような白が舞い降りた。
おや、と思う。
宇宙を満たす闇に漂っていたのに、光に包まれている。
ここはどこだろう?
そして、ぼくの隣にいる存在を見た。
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その瞳の中に、ぼくが漂っていた全ての宇宙が内包されていた。
彼女の白いドレスは、まるで天使が纏う服のようで。
そしてぼくは、永遠に忘れないだろう光景を見た。
瞳に満たされた宇宙が揺らいで、清浄な一粒の雫になり、こぼれ落ちるのを見た。
それは幻聴なのか、軽やかな音がして、まるいガラスの破片になる。
「忘れていかないでください」
と、何かを握りしめていたぼくの右手を開かせて、別のものを掴ませる。
ぼくはその手のひらを見る。
身体は疾うに失ったものと思っていたけれど、くすんで汚れたぼくの手が確かにあった。そこに、何か輝くものが乗っている。
三日月よりもさらに細い、月のモチーフ。
光を反射して輝き出す。
その光がぼくの目に刺さったとき、ぼくは思い出した。
彼女がいて、あの人がいないこの街。
生きている人がいて、もう帰らない人がいる、この地球という場所。
どうしようもない星に、ぼくは未だ、そこにいた。
彼女はぼくの顔を見て、首を傾げる。
「さて、これからどうしますか?」と、綺麗な発音で尋ねられた。
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