『お兄ちゃん』
何故ボクはこんなことをしているのだろうと、ボクは自分の手を眺めた。先程の感覚が蘇る。何故守るために兵士になったのにこんな事をしなければならないのか。
あの子達がいくら膨大な魔力を秘めていたとしても、まだほとんどが十にも満たない子どもだ。本来なら、まだ親元で何も知らずに育っている筈の年齢だというのに・・・。
彼らは揃いの魔力制御の首枷を嵌められて、普段は奴隷のように、戦闘時には兵器のように扱われる。しかも、第一線で、だ。
いくら最高位にも届きうる程の魔力を持って生まれたからといって、こんな扱いは子どもでしかないあの子達にとっては地獄でしかないだろう。いや、きっと地獄よりも酷い。ボクを兄と慕うあの子が、一番魔力と魔術の才能を持って生まれたというだけで嫌だと泣き叫ぶことすら許されないのだ。
ボクは鞭を腰に提げ直しながらあの子達の境遇を思い返してみることにした。
ユマはある部族の出で、治癒系統の魔術の才能が突出していた為に七の時に軍に買われてきた。
レンは王都のスラムの出で、攻撃系の魔術や隠遁系の魔術を幼いながらに会得しきってしまったが為に三の時に売られてしまった。
シナは寂れた漁村の出で、支援や阻害の魔術を生まれながらにして扱える程の才能を持っていた為に八の時に売られてきた。
そして、ボクを兄と呼び慕うあの子___ユキは貧しい農家に生まれた。そして、生まれながらにして最強クラスの魔力量を秘めていた、らしい。彼の家は貧しかった為に、彼を三の時に何処かの商家へ奉公に出した。そして、その際に軍部に目をつけられ五の時に此処へ来た。
才能がなければ。何度も彼らはそう言って啜り泣いた。けれども、彼らを慰める者は誰もいなかった。だからだろうか。一年もすれば彼らは弱音を吐くことをしなくなっていた。ただ、ユキだけは時折「痛いのは嫌だ。」と漏らしていたけれど。
どうしたらあの子達を救えるのだろうか。どうすればあの子達を守れるのか。嗚呼、神様どうか。
愚かなボクに答を下さい。
彼らに「普通の」幸福を教えるために。