プロローグ
亀の如き鈍筆なので更新遅いですがよろしくお願いします。
痛いのは嫌だな。
「でも君は強いんだから。」
ああ、もう苦しいのも嫌だな。
「君には才能があるんだから。」
お家に帰りたいな。
「もう君の家族は君のことなんて忘れてしまったよ。」
帰りたいな。
「どうして?」
・・・痛くないから。
「・・・そうかい。でも帰れないよ。」
そうだけど。でも。
「でも、もう此処でしか生きていけないよ。」
そうだけど。でも。
「せっかく才能があるんだから、国のために還元してくれないと。」
ノブレス・オブリージュってやつでしょう?
「そうだとも。さぁ。」
でも嫌だ。
「何で。」
もう返り血を浴びることも、躰を穿たれるのも嫌なんだ。
「・・・そうかい。」
声の主はそう言うと、僕の首枷に繋がれている鎖を軽く引っ張った。軽い僕の身体はそれだけで前のめりに倒れた。
「痛いかい?」
少しだけ。
「苦しかったかい?」
少しだけ。
「この後私が君に何をするかは解るかい?」
ほんの、少しだけ。
「・・・なるべく手早く終わらせるから。」
でも、どうせ痛いことに変わりはないでしょう?
「それはそうだけど・・・。」
声の主は少しだけ心苦しそうに腰から提げていた革鞭を手に握った。そして、そして。そのまま僕の背中目掛けて振り下ろした。
ごめんね、と言う声が聞こえたけれど、僕は痛くってそれどころじゃなかった。でも、それだけでこの「お仕置き」も耐えられる気がした。変えられない地獄を変えてやろうって思えた。
ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは希望を見て下手に僕が傷付かないようにしようとしてくれたのかもしれないけど。僕らは、それでも。
少しずつ薄れていく景色の中で、鞭が空を斬る音とお兄ちゃんの「ごめんなさい」を聞きながら、僕はそんな事を考えていた。
*****
目が覚めると、僕はいつもの部屋に戻されていた。
「大丈夫?一応応急処置だけでもしてみたんだけど・・・。」
「ありがとうございます。ユマお姉ちゃん。」
薄い桃色がかった灰色のふわふわした髪が特徴的な10歳前後の少女は僕の頭を撫でながら「守ってあげられなくてごめんね」としきりに繰り返した。
「大丈夫ですよ。それにそんなことしたら今度はユマお姉ちゃんが酷い目に遭っちゃいますから。」
それに、正直僕はもう既に守られている・・・と思う。同じ境遇だからこそ安心できるというか。とにかく、一緒にいると気が楽なのだ。
「それはそうだけど・・・でもまだユキくんは6つになったばかりでしょ?私のほうがお姉ちゃんなんだから・・・」
「おい、静かにしろ。そろそろ見廻りがくるぞ。」
「!」
僕らは咄嗟に口を抑えて息を潜めた。扉の外からカツン、カツン、と歩く音が近付いてきた。
と思ったら、扉が勢いよく開かれた。
「ユキとレンは出ろ!敵襲だ!」
一瞬部屋の中がザワついたが、兵士さんがジトリと一瞥すると静かになった。
「・・・ユキ、大丈夫か?」
心配そうに黒髪の少年が僕の顔を覗き込む。同い年の筈なのに、何でか彼が大人びて見えた。
「大丈夫だよ。」
嘘でもこの場ではそう言うしかなかった。だって、「嫌だ」なんて言ったら今度はきっともっと痛いことをされてしまうだろうから。本当は怖いし嫌なのだけれど。
「そっか。じゃあ行こう。」
差し出された手を握って僕は彼と一緒に兵士さんの後を付いて行った。