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第一話「魔剣の王フレズヴェルク」

「というわけで、我とその下僕トウカは魔剣を探す旅に出発したのだ!」

「いやいや待て待て待ちなさい」


 この世界で最初に訪れた場所――ミュルクの森を抜け、人のいる場所を目指して街道沿いを歩いていた下僕こと私、兼元 燈香は隣を歩く銀髪の少女――フレズの物言いにツッコミを入れた。

 フレズは「何か間違った事を言ったか?」とでも言いたげな顔で小首を傾げ、長い銀髪が地面をくすぐるように撫でる。


「何が『というわけ』よ! シリアスな切り方しておいて、あれからどうなったか説明がまるで無いじゃない!」

「ばかもの! あらすじに書いてあるだろうが!」


 そういう事!? やけに詳しく書いてあると思ったら!

 いや粗筋あらすじってそういう物だけれど、内容を大まかに書くものであって間を丸ごと省略する為のものではない気がする。


「必要な知識は魔剣を通じて貴様にも伝達インストールされたであろう?」

「そうだけど、そうじゃなくて」

「なら、何が不満だというのだ」

「ああもう……とりあえず、話を整理するわね」


 彼女の言う通り、この世界については私も知識として知っている。出会った時は全く理解できなかった言語も、まるで翻訳機を通しているかのように自然と発することができるようになった。

 口で説明されても到底信じられないような事ばかりだけれど、常識として刷り込まれたおかげで混乱せずスッと受け入れられてしまったから恐ろしい。

 何故そんな事ができるようになったのか、順を追って説明していこう。


「ここはアスガルドって呼ばれてる、私のいた世界とは違う世界。人間は創造主である神々から魔術を教わって、魔物と対立しているのよね」

「うむ。こことは異なる世界があるというのには我も驚かされたぞ」


 そして、目の前にいるちっこいのも神。正確には神か。

 強大な力を秘めた四本の魔剣を持つと言われる"魔剣の王"フレズヴェルク――というのが彼女の正体らしいけれど、今はその力の大半を失っている。


「あなたは百年前、魔剣の力で魔物を従えて世界の一部を支配していた」

「それが他の神々の怒りを買い、天罰を受けた我は全ての力を四本の魔剣に封印されてしまう」

「で、ただの人間として一生を終えた……はずが」

「百年後……この時代に、子孫として転生を果たしたのだ! ふははは!」


 ここからは知識ではなく、彼女フレズから語られた経緯になる。

 先祖返りのように前世の記憶を持って産まれた彼女は、フレズヴェルクとして復活を遂げるべく、己の力が封印された魔剣の行方を探し求めた。

 その内の一本、ダーインスレイヴがミュルクの森という場所に安置されていると知り、回収の為に単身ミュルクの森へとやって来たのだ。


「だが、人の子に生まれた我を魔物達はフレズヴェルクと理解せず、獲物として襲ってきた。なんとか逃げ回りながら、魔剣の下へ辿り着いたは良いが……」

「子供の力じゃ剣を台座から引き抜けなかった、と」

「これは誤算であった。魔物にも追い付かれ、万事休すかと思われた時、貴様が現れたのだ」


 そして、フレズを庇って魔物(あれはゴブリンという個体だそう)の攻撃を受けた。

 彼女によると、私は台座から魔剣を抜いてゴブリンを斬り伏せたけれど、とっくに動かなくなったゴブリンを何度も何度も滅多刺しにして、自分も血を流し過ぎて倒れたらしい。


「ここで貴様を失うのは惜しい。自分で魔剣を扱えぬ以上、手足となって魔剣を振るう者が必要だったからな。そこで、魔剣に封じられた力を再び手にする為の契約インストールを、我ではなく貴様に行うことで延命させたのだ」


 というのが私が助かった理由。フレズに生かされた私は、魔剣から流れ込んできた知識でここが異世界だと知って、自分が違う世界から来たことを彼女に話した。

 すると彼女は、魔剣集めを手伝えば元の世界に帰してやるぞと言った。私の生殺与奪はフレズが握っているので、逆らいようがない。

 こうして、私は魔王を復活させる手伝いをさせられる破目になったのである。

 

「内申に響いたりしないかしら、こういうの……」

「ナイシンとはなんだ? 魔剣の王の直属として仕えることが出来るのだから、もっと喜んだらどうだ」


 溜息を吐く私を見て、フレズがむっとする。

 逆らえないと言っても、相手はこの通り見た目も言動も子供。兼元家の長女ともあろう私が子供にへりくだるなんて、プライドが許さない。

 かと言って機嫌を損なえば、魔剣との契約を切られてしまうかもしれないし、ここは適当な理由を付けて誤魔化しておこう。


「確かに、あなたは私のご主人様よ。でも人間としての身分はあまり高くないんでしょう?」

「だから何だと言うのだ? 貴様が我の下僕であることには変わりあるまい」

「表向きの話よ。人前でかしずいて、あなたが魔剣の王だと知られたら騒ぎになるわ」

「それは……確かに」


 私の意見に言葉を詰まらせて頷くフレズ。

 彼女の服装は森の中で会った時と同じ、ボロ布が一枚。着飾れば化けそうな可憐さはあるけれど、やはり名家の生まれというわけではないらしい。


「もちろん、死にかけたところを助けてくれた事には感謝しているし、おかしな命令じゃなきゃ従う。あくまで表向きは対等を装いましょうという事よ」

「……分かった」


 言いくるめには成功したようだ。これで理不尽な扱いを受けずに済む。

 不服そうというか、やや元気の無い彼女の様子が引っ掛かり、私なりの譲歩はしてしまったけれど。

 変に掘り下げて気が変わっても困るので、話題転換をすることにした。


「そういえば、肝心の魔剣はどこに行ったの?」

「ん? ああ、そんな事か」


 これも目が覚めてから気になっていた事だ。台座にも、私やフレズの持ち物にも、魔剣ダーインスレイヴとやらは見当たらなかった。


「契約さえ済ませてしまえば、あとは我の意思で自在に出したり消したりできる。さっき貴様が言ったような理由もあるが、魔剣を手にした貴様が我に叛する危険性も考慮してな」

「へぇ、そこはちゃんと考えていたのね」

「なんだか微妙に馬鹿にされたような気もするが……そういう事だ」


 今のフレズは小さな子供で、腕力なんかも見た目相応らしい。魔剣が無くても簡単に組み敷いてしまえそうなほどだ。

 とはいえ感謝しているのは本当だし、口では負ける気がしないので、実力行使に出るつもりは現状ない。


「それじゃ、当面の目標は残りの魔剣の手掛かり探しね」

「うむ。この先に大きな街がある。そこで情報収集だ」

「街、か……」


 私のいた世界とは異なる歴史、異なる文化を持ったアスガルドでは、どんな生活が送られているのだろうか。

 楽しみ半分、不安半分の心境で、私はフレズと共に街道を歩いていった。

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