夢のお告げ
青年がノックし扉を開ける。俺は恐る恐る室内に入った。所長は三十路くらいで、施設の管理者としては歳若い女性だった。書類に目を通しているからか眼鏡をかけており知的にみえる。彼女は俺をソファーに腰かけるように言うと、書類から視線を逸らさずに手短に話を始めた。
此処では入学試験としてまず手始めにどんな能力があるか、どれほどの力なのかをテストするため一週間ほど施設で生活する。その間様々な実技試験を実施。能力があると判定出来れば正式に入学出来るという。
それからは二つのコースからどちらか選択しなければいけないらしい。
まず始め、ヒーラーコースとは、超能力で人を癒すことを目的としたコースである。治療者、霊媒師、霊能力者、カウンセラー、セラピスト、など癒しの部門の専門家を目指すよう特化している。学科はチャクラ学、天文学、占星学、人体学、そして幾何学というような個性的なものばかりだ。二つ目、特殊捜査コースとは、超能力で犯罪者を炙りだすことを目的としたコースである。目指すは捜査の専門家だ。学科は語文心理学、瞑想道徳、論理数学、空間認識、コミュニケーションといった特殊なものが多いが、体育や音楽など普通のものも取得しなければならない。俺はもちろんその答えは決まっている。
「それじゃあ。検討を祈るわ、シオウ」
説明が終わると所長が立ち上がったので、握手をして部屋をあとにした。
『……マ、トーマ!』
気がつくと辺りは芝生で、そのところどころに椿が花開いて佇んでいる。また自分は知らない場所に来てしまったようだ。もしかして、と自分の左手を見るとやはり少女のもので、再び姉の姿になっていたことを知らされる。
『よかった〜、気がついたのね。何度呼んでも起きないんだもん〜』
間延びした口調が頭の中で聞こえてきた。
「春鹿…?」
『そうよ〜』
「ここ、どこだ」
『決まっているじゃない。エトワール・モンドだよ〜』
思い出した。施設のテストで俺の本体は眠りについているんだった。それならここは夢の中のはずである。考えて、はっとした。
「そうだ!ねぇ春鹿。訊きたいことがあったんだ」
『なあに?』
「ソフィアさんに会った日、目が覚めたら指輪をしてた。これ何だか知ってる?」
『それは力をもらえる守護石だよ。それをつけていれば私のエネルギーでストーンのパワーが増すの。トーマの能力が飛躍的にアップする、シトリンていう石なの』
「シトリン…」
『そして守護星っていう、力を与えてくれる星があるんだけど、私達は双子だから同じ宿でチトラーなんだって。えへへ、トーマと一緒嬉しい』
本当に嬉しいのだろう。声にははにかんだ幼さがこもっている。春鹿は幼い頃に昏睡したからか、内面的な歳は俺の方が上なのかもしれない。姉弟というのもあってこうして話していても不思議と戸惑いはなかった。まるで幼い頃から仲のいい友達みたいにすんなり受け入れられる。
『ソフィア様から聞いたでしょ。仲間がいるって。私も逢いたいなぁ』
羨ましい気持ちを隠せないというような呟きだった。春鹿は違う世界に居るから会えないということなのだろうか。
「仲間…か。まだピンと来ないけどな。春鹿はここに居てどうやって仲間を捜すの?」
『んー、なんとなく、懐かしいオーラのする方に吸い寄せられるような…?そうしたらね、眠ってる石像を見つけて。あぁこれはトーマの力の源なんだって直感的に感じたの』
「石像?」
『そう!濃い霧がかかっているところでね、霧の中に映像が浮かび上がってて目まぐるしく場面が切り替わっていくの。テレビのチャンネルをひたすら替えるみたいな。だからこの石像は夢を見続けてるんだろうなって思った。そのシトリンの石もその子から貰ったものなんだよ』
不思議な世界の不思議な石像。これも何か超能力と関係があるのだろうか。霧の中夢を映し出す眠ったままの…と考えていると急に背中がぞくっと鋭い寒気を感じ震えた。
『でもびっくりしたよ〜。その後トーマがこっちに来るなんて予想してなかったから。何はともあれ、私は逢えて嬉しいよ!』
今のは何だったんだろうと疑問が過ぎるが、春鹿ののんびりした声で掻き消される。
「うん。俺も嬉しい」
素直な感想が口から溢れた。不思議と偽りない自分のままで彼女には接することが出来る。
『じゃあ、これから出会う仲間の特徴を教えるね。まず守護星はレヴァティー、ムリガシールシャ、ハスター、ダニシュター、シュラヴァナー、そして私達がチトラーで7人。レヴァティーを守護に持つ人物は身体感覚能力、つまり運動が得意なの。ムリガシールシャは言語能力に優れていて交渉術が得意。ハスターは六感があって音感能力が高い。ダニシュターは論理数学的能力が優れていて発明家。シュラヴァナーは空間認識能力があるんだけど、気をつけて、陰の気も持っているから』
最後の奴が引っかかるが、特徴を教えて貰えたのは有り難い。
「えっと、じゃあチトラーの俺はどんなことが得意なの?」
『人間関係形成能力だよ。コミュ力てやつ?』
「なんか普通…凄くない…」
『そんな事ない、凄いんだよ!個性的な超能力者まとめるにはトーマが必要なの。トーマがいなくちゃだめなの〜』
「そうか…なぁ」