0820
私は白い部屋にいる。
壁も白、床も白、窓枠も白。
窓際に置かれたソファも白、ソファの横に置かれた円形のサイドテーブルも、そのサイドテーブルに置かれた花瓶も白。
花瓶に飾られている花も恐らく白。
その花の香りだろうか、とても心地よい香りが部屋を包み込んでいる。
白い窓の向こうだけは目が覚めるような緑色が広がっている。綺麗な、本当に綺麗な緑色。外は初夏のような爽やかな感じがする。
私は白いソファの右側に座っている。私の右側には白い花、私の左側にはあなたが座っている。
あなたの体の右側が触れる私の体の左側はとてもあたたかく、心地よく、とにかく私は幸せだと感じる。
と、同時に何故だか悲しいとさえも思い、涙が滲んでくる。それでも心はじんわりとあたたかく、やっぱり私は幸せなのだと気付く。
人はあまりにも幸せ過ぎると悲しくなってしまうのかも知れないなと、向かいの白い壁を見ながら考える。
白い壁を見ていると、なんだか壁際の方へ行こうという気になる。
私は腰を浮かせる。でも、あなたはそれを止める。あなたは私の左腕を、大きな手で掴む。細く長い指が好きだと私は思う。
掴まれた左腕から身体中にあたたかなものが広がっていく感覚がする。
それが全身にまわってしまったらと思うと、私は少しこわくなる。
幸せがこんなにこわいなんて思わなかった。
あなたは私が壁際に行こうとしたり、窓の外を覗こうとしたりして、ソファから離れようとする度に、何度も何度も私の左腕を掴んで、あなたの隣に座り直させる。
そのうちにあなたは私の右肩に手をかける。
あなたの太ももへと私の頭部が少しずつ傾き、やがて落ちる。
あなたは私に膝枕をしながら、私の髪に指を絡めてみたり、頭を撫でてくれたりする。
いとおしそうに優しく触れる手。ゴツゴツしていて、でも細くて長い指。また私の目頭が熱くなる。
私は左の頬であなたの太ももの感触を味わう。
細くて少し頼りないけど、私の頭を支えてくれるあなたの太もも。
細いスキニーのデニムをはいているのね、綺麗な藍色が目に写る。
デニム越しにあなたの体温を感じる。愛しい。
なんて心地いいのかしら、ずっとこのままでいたいなんて、思ってしまう。
窓の外はまだ緑色かしら。
テーブルの上の花はまだ咲いているかしら。
あなたの顔が見たいわ。笑うと弧を描くあなたの目が好き。大きくてゴツゴツしたあなたの手が好き。あなたの目元に影を落とす少し伸びた前髪も好き。
こんなに好きなのにこんなに苦しい。
私はあなたが愛しすぎてどうしようもない。