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04

「莉緒が……、莉緒がいなくなった!!」


 克之が思いつきで下校時間に合わせて迎えに行ったところ、姿が見えず連絡もとれないことに不審を覚えて担任の先生に状況確認した。すると、「今朝、莉緒ちゃんは学校を休むとお母様から連絡を受けましたが……」という予想もしなかった返答で全身から血が引くのを感じ、しばらく呆然としていた。

 学校を休むという連絡があったということは、朝から学校に行っていないということ。しかし、奏子の話では普段通り登校していったという。つまり、自宅を出て学校に到着するまでの間のどこかで莉緒が攫われたことになる。

 ――誰だ。誰が莉緒を攫った!!

 克之は必死に心当たりを思い巡らすが、1ヶ月半前に起きた事件の後大スキャンダルとして報じられた篠宮家ぐらいしか思いつかない。すぐに隼人に会って当時の経緯を詳しく聴取する必要があると、車に乗り込もうとした時――。


「克之!」


 聞き覚えのある声に呼び止められて振り向くと、そこには隼人の父、内藤俊輔が立っていた。

 克之と俊輔は小学校から大学まで一緒だった親友で、社会人になってからは一時期離れていたが、7年前偶然内藤家の隣家に引越したことで再会し、気がつけば子どもたちが婚約する仲になっていた。

 俊輔もまた思いつきで未来の義娘を迎えにきたのだが、校門前で佇んでいた克之を見かけて声をかけたのだった。


「なんだ、莉緒ちゃんの今日のお迎えは克之だったのか~」


 それなら俺が迎えにくることもなかったなぁ~と照れ笑いしていた。

 しかし、克之の反応は薄い。

 普段なら、「隼人の許嫁になったとはいえ、莉緒はまだ嫁にやらんぞ」とムキになるところだが、克之の様子がおかしい。その顔には血の気がなく、その目は焦点も定まっておらず何も写してない。


「克之、どうした? 莉緒ちゃんは一緒じゃないのか?」


 呆然としてカタカタと震える克之の肩を激しく揺さぶると、ようやく俊輔に視線を向けた。


「莉緒が……、いない……」

「莉緒ちゃんが……、なんだって?」

「莉緒が……、登校していないんだ!」



 俊輔は乗ってきた自身の車を運転手に命じて帰らせると、克之から車のキーを奪い、動揺が収まらぬ所有者を後部座席に押し込め、自身は運転席に収まり車を発進させた。

 ミラー越しに克之の様子に目を配るが、相変わらず血の気が引いた顔で呆然としている。


「克之、何が起きた。莉緒ちゃんにかかわることなら、内藤家総力を挙げて守るぞ」


 克之は、この数分の間に知り得た情報をポツポツと話し始めた。


「今日の莉緒の送迎、大和くんの都合がつかないことは自分も聞いていた。でも、それはお迎えのことだけだと勝手に思い込んでいたんだ。だから、取引先との予定がキャンセルになったのを幸いに、お迎えは自分が行こうと思って来てみたんだ。そうしたら……」

「莉緒ちゃんの姿はなく、実は朝から登校していなかったことが判明した……ということか」


 克之は、大きな手で顔を覆うと呻いた。


「自分の娘のことなのに、人に任せきりでいたツケが回ったんだ!」


 それっきり、克之は何も言わなくなった。

 俊輔は車を路肩に停めると、どこかへ電話を架けた。


「俊輔です。お義兄さん、すみません。内藤家の嫁が拉致られました。朝の登校時間帯で、拉致現場は自宅から学校までの間と思われます。あの事件で大スキャンダルに発展した篠宮家絡みが一番濃厚な線だと思われます。大至急行方を追ってください」


 電話を終えると、俊輔は後部座席に体を向け憔悴している克之に声をかけた。


「克之、安心しろ。必ず内藤家が探し出してやる。内藤家の未来の嫁に手を出した報いも必ず受けさせてやる!」


 俊輔は、再び車を発進させた。



 木下家に到着する頃、克之の携帯が鳴った。

 俊輔は車を路肩に寄せ、エンジンを切った。

 莉緒を攫われたことで激しく動揺していた克之であったが、架かってきた電話に出られる程度には落ち着きを取り戻していた。ただ、非通知でかかっているのを見て、克之は嫌な予感がして出るのを躊躇った。俊輔は、「仕事上の電話かもしれないし、犯人からの電話なら尚更出なくてはダメだろう」と言って受電を促した。


「……木下です」


 克之は、深呼吸してから電話に出た。


『莉緒ちゃんのお父さん?』

「?!!」


 ボイスチェンジャーで機械的な音声に変換されたそれは、いきなり莉緒の名前を出した。

 それは、明らかに犯人からの電話だった。


『莉緒ちゃん、預かってます。今から3時間以内に発見できれば、丸焼けになる前に回収できるかもね』


 サラッと吐かれた何の抑揚もない言葉は恐ろしい内容だった。

 ――3時間以内に発見できなければ丸焼けだと?!

 克之は絶句した。


「莉緒は……、何処だ」


 あらゆる感情が高ぶって爆発しそうなのを堪えながら、なんとか莉緒の所在を問うた。


『あれれ? 無事かどうか確認しないの?』


 犯人は、クスクスと笑っている。


「もう一度言う。莉緒は、何処だ」

『なんだ、面白くない。もっと感情的になって取り乱すと思ったわ』

「期待にこたえられず、悪かったな。で、どこだ」

『じゃぁ、大ヒント。大田区の空港がよく見える廃工場。このことを警察や隼人くんに連絡したらダメよ。どうなっても知らないから。じゃぁね~』

「おい、おいっ!!」


 莉緒の詳細な居場所がわからぬまま、唯一手がかりの電話が切れた。

 傍らで一部始終電話の様子を注視していた俊輔は、再びどこかに電話を入れた。


「俊輔です。犯人と思われる人物から克之の携帯に連絡がありました。莉緒ちゃんは、大田区の空港がよく見える廃工場にいるようです。今から3時間以内に発見できなければ丸焼けになると言われました」


 克之は、ハッとして俊輔を見た。そして、電話を終わらせようと邪魔をした。


「おい、俊輔! やめろ! これ以上、お前を巻き込みたくない!」


 しかし、俊輔は手で制し電話を続けた。


「あぁ、すみません。それと、警察と隼人に連絡したらどうなっても知らないと脅されましたよ。内藤家を脅すとは、犯人もいい度胸をしていますね。では、これから大田区に向かうので、居場所を絞り込めたらメールしてください。では」


 電話を終えると、俊輔は無言で車を発進させた。


「俊輔……、どうして……」


 克之は、泣きたい衝動を堪えながら俊輔に問うた。


「莉緒ちゃんはお前の娘だが、俺の娘になる子だということを忘れてくれるな。娘を守るのは、父親の義務であり特権だろ?」


 俊輔は、茶目っ気たっぷりに答えた。


「だが、内藤家に害が及ぶかもしれない……」

「克之。あの程度の脅しで俺が怯むと思うか? 俺を誰だと思っているんだ、土方コーポレーションの次期総帥だぞ。これぐらい乗り越えられなければ、『わしの莉緒ちゃんを守りきれぬとは不甲斐ない!』とクソ親父に文句言われてかなわん。隼人からも恨まれるしな」


 そう言って、環八通りを南に向かった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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