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ご令嬢の遅い初恋が拗れて起きた事件は、自業自得とはいえ、大きなスキャンダルに。。。
四季砲第1弾で報じられた国会議員を父に持つ社長令嬢の素性は、未成年ゆえ名前こそ表に出なかったものの、いとも簡単にマスコミによって割り出された。
篠宮玲子17歳。
篠宮コンツェルンの社長令嬢で、国会議員をつとめる篠宮議員の娘である。
玲子は、C君こと内藤隼人の同級生で生徒会副会長をつとめていた。隼人に恋して冷静さを欠いた玲子は、表向きは3歩下がって男を支える大和撫子を装っていたが、内心は激しい恋心に翻弄されていた。今回の件は、いくら愛しくても全く振り向いてもらえない辛さゆえの愚行であったが、それが父親の立場を、ひいては自慢にしていた経済力の基盤そのものを瓦解させることになるとは夢にも思わなかった。
警察でひととおり事情聴取をされたあと、被害者側から「子供の喧嘩で、将来ある若者の経歴に未成年のうちから傷をつけたくない。詫びる気持ちがあるのなら、親と一緒に謝罪に来るがいい。そうすれば、こちらとしても示談で済ませる用意がある」と申出があったと聞かされた。警察署に駆けつけた母親と弁護士は示談に応じるべきだとし、夕方になって帰路につくことができた。
玲子にしてみれば、遅く訪れた初恋の相手から見向きされず、恋敵が小学生でカッとなって手をだしたら警察に連行されるなど、箱入り娘が経験するにはあまりにも衝撃的な一日であった。
週刊誌が掲載したスクープ写真は、まさにボロボロの精神状態で両脇から母親と秘書に支えられて警察署を出てきたところを撮られたものだった。
数日後、篠宮家に1本の電話が入った。
「はい、篠宮でございます」
古参の女中が電話に出ると、いきなり週刊春夏秋冬の斉藤一と名乗る人物から不躾な質問をされた。
「篠宮家のご令嬢が、先日小学生に暴行した加害者として警察に事情聴取されたそうですが、篠宮議員はご自宅ではなんと仰ってるのでしょうか?」
女中は驚いて受話器を落としそうになった。
声をあげなかったのは流石に年の功と言うべきか。女中は平静を装い、マニュアル通りの対応をした。
「誠に申し訳ございませんが、そのような事実は存じ上げません。ですから、お嬢様について旦那様がどのように仰っておられるのかも存じ上げません」
「ではもう一つ。篠宮議員の婚外子の真由美さんは、ご令嬢と同じ年齢ですよね? そのことについては……」
受話器の向こうでなんとしてもコメントを得ようと叫んでいたが、女中は一切の質問に答えず受話器を切った。
女中は腰を抜かす間もなく、夫人のもとに駆けていった。
同じ頃、篠宮コンツェルンの広報室に同じ週刊誌の山口一と名乗る人物から電話が入った。
「御社の社長令嬢が、先日起きた小学生暴行事件の加害者のひとりとして警察から事情聴取を受けたそうですが、会社への影響はいかがですか?」
突然飛び込んできた情報に、広報室に動揺が走った。しかし、事実確認に時間がかかるためマニュアル通りの対応をした。
「弊社としましては、事実確認ができておりませんのでお答えいたしかねます。また、仮定の話については一切答えるつもりはございません」
慇懃な対応で電話を切ると、広報室は情報収集で騒然となった。
そして、篠宮議員事務所にも同じような電話が入った。相手は同じ週刊誌の藤田五郎と名乗った。
「今回、議員のお嬢さんが小学生暴行事件の加害者でリーダー格と目されているそうですが、円満な家庭像は演出に過ぎないということですね?」
電話に出た熟練の私設秘書は、動揺することなく慇懃に答えた。
「議員のお嬢様がそのような事件に関わったという情報も連絡も入っておりませんので、当事務所としてお答えできることはございません」
しかし、これは週刊誌側も想定済み。
「そういえば、赤坂の幸恵さんが妊娠3ヶ月だそうですね。3人目のお子さんが授かって、議員もますます国政に励まれることでしょう。今後のご活躍を期待していますよ」
これには、さすがの私設秘書も動揺を抑えられなかった。
すぐさま否定しようとしたが、既に電話は切れていた。
【S議員の虚像と家族】
家庭円満で世間から理想の家族像とされていたS議員であるが、それが虚像であったことが判明した。
議員のご令嬢が小学生暴行事件の関係者として警察に事情聴取されていたこと既に報じているが、取材を進めていくうちに、そのイメージとはかけ離れたものであることが判明した。
S議員はおしどり夫婦としても有名であるが、実は夫人との関係は完全に冷え切っていて、S議員は2人の愛人を浅草と赤坂に囲っているというのだ。
浅草の愛人は元芸者で、議員が夫人と結婚する前からの長いつきあいだという。2人の間に女の子がいて、今回スキャンダルの発端になったご令嬢とは同級生である。S議員は娘を認知したかったらしいが、夫人の反対と娘の母親が固辞したことから実現しなかった。その代わり、毎月の生活費と養育費として50万ずつ送金していたらしい。
赤坂の愛人は23歳で、銀座のクラブで働いていたところを見初められたという。こちらは現在妊娠3ヶ月を迎え、S議員は3人目の子を授かったと喜んでいたそうだ(関係者男性)。
それにしても、なんともモテモテで男としては羨ましい限りである。しかし、3家庭を維持するために相当費用がかかるだろうに、大企業の社長で現職国会議員というのはそれほど儲かるものなのだろうか? 石川啄木の「一握の砂」にある歌ではないが、働いても働いても1家庭を維持するのが大変で夫婦共働きをしている一般家庭が多いと思うのだが、どのようなお金の流れになっているのか非常に気になるところである。
次号は、「気になる金の流れ:政治資金と黒い噂」を報じる予定ですーー
(週刊春夏秋冬―○月△日)
四季砲第2弾が出ると、マスコミは篠宮夫妻からコメントを得ようと連日自宅前で張り込むようになった。
しかし、ここには篠宮家の人間はいない。
篠宮議員は報道されていない3人目の愛人宅に雲隠れし、夫人は長年隠れて不倫していた茶道の若宗匠のもとに身を寄せ、玲子は篠宮議員が節税対策で玲子名義で購入したマンションに身を隠していた。ただ、今回の事件で学校から謹慎処分を受けていたことと通学することでマスコミに囲まれる可能性もあり、休学を余儀なくされていた。
広々とした4LDKのコンシェルジュ付新築マンション。
明らかに家族向きの間取りだが、この部屋にいるのは玲子だけである。毎日女中が家事をしに通ってくるが、他に誰かが訪れることもないので自室に引き篭もってばかりいた。
何故、自分がこのような目に遭わねばならないのか。
そもそも、隼人が自分を見てくれていればこの様な事態にならなかったはずだ。
では、何故隼人は自分を見てくれないのか。
あの子がいるから見てくれないのか?
ならば、邪魔者を排除すれば隼人は自分を見てくれる!!
「そうよ。あの子が私と隼人の邪魔をするからこんな事になったのよ! あの子さえ存在しなければ……」
その日、玲子の部屋からブツブツと独りごちる声が一晩中聞こえていたという。
玲子が心の闇に囚われていた頃、木下家では莉緒の快癒と誕生日を祝う食事会が開かれていた。
そこでは木下家・内藤家が見守る中、10歳になった莉緒に隼人が2度目のプロポーズでエンゲージペンダントを渡し永遠の愛を誓った。
2人の幸せは、絶頂を迎えていた。
読んでいただき、ありがとうございました。