召喚、そして。
しばらく歩くも森の中のまま。
まず先に弱音を吐いたのはお嬢様育ちのチコだった。
「疲れたよぉ…」
「獣のクセに早いわ。」
「リオナぁ…休もうよぉ…」
「はいはい。」
川のせせらぎを聞きながら、川辺りでのんびりする。
リオナはまず川の水を飲んだ。
「意外と乾いてたわね。」
「…川の水って飲んで良いの?」
「他に水ある?」
「な、無いけど…」
「なら、川の水飲むしかないんじゃない?まぁ見た目的に綺麗だし。流石に濁ってたら飲まないわよ。」
「うむむむ…」
存外お嬢様育ちだったチコ。
対して決して裕福ではなかったリオナ。
行動の全てはここで決まった様なものだった。
「…ゴクッ…っ!!美味しい!」
「綺麗な自然のものだし。」
「街は浄化された水しか飲めなかった!!美味しい!」
「へぇ…浄化?」
「魔道化学の発展で汚染水が世界中に広がって…魚も養殖の物しか見た事ないし…泳いでる魚って綺麗なのね。」
泳ぐ川魚を目で追いながらチコは興味深げに呟く。
「確かにね。…ん?汚染水が世界中?って事は森とかももうダメなんじゃないの?」
「そうね。街以外は殆ど砂漠ね。」
「だとしたらここはチコのいた世界じゃないじゃないのよ…」
「?なんで?」
「あのね。世界中が砂漠化してるんならこんな豊かな森なんてないじゃないの。」
「…言われてみればそうね?」
「はぁ…しっかりしなさいよ…」
ため息のリオナだった。
「だとするとここはどこ?」
「さあね。とにかくまずは住むところ。」
「そうね。」
ワシャワシャと首元を掻きながら、チコは辺りを見回す。
「自然って、綺麗なのね。」
「そうね。」
鳥のさえずり、木々を揺らす風の音、そして川のせせらぎに、時折川から飛び上がる魚の水音。
それをじっと聞き入っていたチコの耳が何かを捉える。
「リオナ、何かいる。」
「何か?」
「獣…かな。足音が聞こえる。」
「ふぅん。」
「って何落ち着いてるの!?」
「そりゃ森だし動物いるでしょ。魔物がいれば魔物ね。」
「それはそうだけど!!」
じっと水面を見つめていたリオナは、ガサリという音に漸くチコが見つめていた茂みに目を向ける。
「う、ウルフ?」
「グルルルル…」
「リオナっ」
「慌てない慌てない。こういう時こそ落ち着いて。」
「落ち着き過ぎじゃない!?」
「だから…」
「ワォーン!!」
「来たぁー!!!」
「…狼如きが…人間様に図々しいわー!!!」
「ぴゃ!?」
リオナの叫びと共に雷と炎がその突き出された手から放たれる。
それはウルフに直撃し、ウルフは予想外の反撃に情けない鳴き声を上げ、茂みに戻っていった。
「ふん!これしきで逃げるとは情けない!」
「い、雷の魔法…」
「いやー、出せるかなって思ったら出たねぇ。ついでに魚もゲット。」
ぷかーと川には先程の川魚が二、三匹浮いていた。
それを掴みあげるリオナに。
「だから順応早すぎ!!っていうか性格違い過ぎ!ホントに私!?」
そんなチコの叫びが上がった。
「魔術成功してんだからそうなんでしょ。ほら、これ食べてまた歩くわよ。」
「なんでそんな普通にしてるのよぉ…お魚どうやって食べるの?」
「そんなの普通に焼いて食べるでしょ。薪拾い行くわよ。」
「あっ待ってよー!」
なんともサバイバル慣れしているリオナである。
「もしかして他の属性も出せるんじゃないの?」
「さぁ?っていうか他の属性って?」
「んーと、火と雷はあるから…水、風、土、金、木、氷、重力、それから光と闇ね。」
「ふーん…おっ出た。」
「出したの!?っていうか…使い方上手いわね…」
「イメージイメージ。そういうのは元々好きだから。」
「私は苦手よぅ…」
「それよりも…チコは何が出来るの?」
「…さあ?」
「そっちもなんとか見つけないとね。」
「そうねぇ…あ、これいい匂い…ひっ…ひっ…」
「無闇に匂い嗅ぐとくしゃみ出るよ?」
「へぷしっ!!」
その途端。
口から火が吹出た。
「ぴゃ!?」
「なるほど。口から吐くタイプか。」
「びっくりしたぁ…あら?」
「…びっくりはこっちのセリフだ。尻尾増えたけど。」
「びっくりした風に見えないんだけど…もしかして魔力を使える様になれば増えるのかしら?」
しばらくは魔法が使える事が楽しいのか、小さな火を吹きまくるチコだった。