召喚、そして。
小鳥がさえずる、のどかな森の中。
その中を流れる小川のほとりに小さな子供と、そして小さな白い狐。
「ん…?ここ、は?」
先に目を覚ましたのは子供。
そしてその身じろぎに、狐も目を覚ます。
「んん…ここはぁ?」
「知らないよ。」
「ふぁーあ…なんか良く寝た。」
「お気楽ね…なんで子供?てゆーか髪の色もなんか変わってない?」
「それは良く分からないよ…そんな記述無かったもの。」
「あー、そう…で、この後どうしたらいいと思う?」
「んー…とりあえず…服?」
「だよねぇ。」
小さくなった彼女は元々着ていたキャミソールのみという服装だった。
そして真っ黒だった髪は、金から紅という不思議な色をしていた。
「所で…同じ名前じゃややこしくない?」
「そうだねぇ…」
「狐…玉藻?」
「タマモ?何それ。」
「私の世界の狐の妖怪の名前?」
「ヨウカイ?」
「魔物、みたいなの?」
「えー…魔物の名前なのぉ?」
「じゃチコ。」
「なんで!?」
「昔飼ってた猫の名前。」
「…仕方ない…魔物よりマシね。あなたは?」
「この際変えても良いかもねぇ。見た目変わってるし。」
「そうねぇ…ならアリーヤってのは?」
「えー…なんか私じゃないよー。」
「そう?」
「そんな可愛い名前みたいな性格じゃないわよ。」
「確かに。」
自分に頷かれ少々複雑である、と彼女は思った。
「でも可愛い名前の方がいいわよー。」
「うーん…」
「リオナ。それなら良いんじゃない?」
「ま、そうだね。じゃ、とりあえず…現状の把握からしていきましょうか。」
「ほぇ?」
「ほぇ?じゃないよ。今いる所の安全性、人がいる場所が近いのか、あと食べ物よね。魔物がいるから、いるなら戦う術。やる事はたくさんあるでしょ。住む所も必要なんんだし。」
「…同じ私なのに全然違うのね。」
「はぁ?」
「私そんな事思いもしなかったわ…」
「一体どんな生活だったのよ。」
「んー…お部屋で一日魔法書読んだりしていたかしら?侍女達が美味しいお茶を淹れてくれたりとか。」
「なるほど。世界が違えば同じ私でも富裕度が違うと分かったわ。」
「?」
半眼になりながらチコを抱き上げるリオナ。
「ま、これから運命共同体だし?別人だし。」
「そうね。よろしく、リオナ。」
「よろしく、チコ。」
そして彼女達は森の中を歩き出した。
「それで、ここはチコのいた世界じゃない訳?」
「ううん…ここだけじゃなんとも。」
「まぁそうよね。魔法書読んだりしてたなら魔法使える?」
「ううん。」
「は?」
「私達の世界の魔法の定義は。」
ひらりとリオナの腕から降り、チコは歩き出す。
それについて行くようにリオナも歩き出す。
「呪文無しに使うのが魔法。魔力をそのまま使うの。そして、呪文を用いるのが、魔術。…生涯で使えた魔術があなたと会ったあの魔術だけ。私は…魔力があるけど…それを行使する才能が無かったのよ…」
「…そう…」
「火を出したい、と思って出せれば魔法は使えるけどね。まぁ属性もあるし…」
「…」
チコの話しを聞き流しながら、リオナは自らの手を見つめた。
「リオナ?」
おもむろに、人さし指を天に向ける。
すると大きな火柱がそこから吹き上がる。
「ひゃっ!?」
「おお、出たねぇ。で、属性って?」
「リオナ順応早くない!?」
「まぁ良く言われる。」
同じ顔、同じ人間であっても。
その性格などは違うと実感した二人だった。