召喚、そして。
暗い空間に彼女は浮いていた。
ふと目を開ける。
目の前には先程の光。
「…やっと、見つけた。」
「え?」
聞き覚えのある声。
それに首を傾げる。
光が大きくなり、徐々に人の形を成していく。
「っ!?」
その姿に彼女は驚き、息を呑む。
言葉に詰まる。
「…初めまして。私。」
そこには彼女と同じ顔の女がいた。
「わ、私?」
「そう。」
にっこりと微笑む彼女と同じ顔の彼女。
纏う衣服は全く見た事もない様な服装だった。
彼女は彼女の手を取る。
「…お願いがあるの。」
「はい?」
「…私、もう人間でいたくないの!!お願いっ」
「へ!?ええ!?」
「だから私と…」
「ちょっ…ちょっと待って!?あんたが私だってのは100歩譲って理解なんとか出来るとしても!人間辞めたいって何!?」
彼女の問いに彼女は少し間を置いて答えた。
「…それは…私ずっと人間である事に疑問を持って生きてきたの…」
「え、何、自分の性別に疑問を持つみたいな?」
「そんな感じね。ずっと、ずっと人間である事が疑問で、不快感を持ってきた。そしてとある古文書にそれを解決出来る魔法を見つけたのよ!」
嬉しそうに話す彼女に彼女は呆ける。
魔法、という言葉にだ。
「魔…法?」
「ええそうよ?もしかしてあなたの世界は魔力がないの?」
「な、無いよ…あったらどれだけ楽しいだろうって位…」
「魔力が欲しい?」
「いや、そもそもどうして私?」
「…この魔法はね、自分と、そして「他の世界の自分」との契約なの。」
「…ふむ?」
「自分の魔力を半分割って、もう一人の自分に渡すの。そしたらその人と契約した事になり、魔力を渡した方が人間ではなくなるの。」
「渡された方は?」
「魔力のある人間になるわ。これは人間を辞めたい人が異世界に住む自分を見つけないといけないの。」
「へぇ。」
ファンタジー好きな様で彼女はすぐに受け入れた。
「良いよ。」
「良いの!?」
「まぁ魔法とか、好きだし。使える様になるならまぁ良いかなって…」
「ありがとう!!」
自分に抱き着かれるという不思議な体験に彼女は少し複雑な表情を浮かべたが、それも少しの間だった。
「じゃあ始めましょ!」
「う、うん…」
興奮気味に話す彼女に、圧され気味ではあるがしっかりと頷く彼女。
それを見届けた彼女は胸の前でしっかり手を組む。
暖かな波動の様な物が彼女から発せられる。
「さぁ、目を閉じて。」
言われるまま、彼女は目を閉じる。
そして、二人の間に光が現れ、そして二つに分かれそれぞれの彼女に入る。
「あたた、かい…」
「それが魔力よ。」
暖かさに目を開けた彼女は、もう一人の彼女が徐々に姿が変わるのを見た。
その姿は。
「…狛狐?」
「あら、可愛い!けど…ちょっと小さいかし、ら?」
「ん?」
そして、彼女も、もう一人の彼女の変化を見た。
段々と縮んでいく身体。
「え、え!?ちょっと何!?」
「わっ私も分からないわ!?」
そして、暗い空間は徐々に明るくなり。
「「ええええ!?」」
二人の叫びと共に空間は割れ、そして散った。
二人は光の洪水に飲まれ、そして消えていった。