召喚、そして。
電車が鉄橋を走り去る、夕暮れの土手。
そこに疲れきった女性が一人。
「はぁ…」
何分と経ってもため息の女性は、何度目かのため息の後、立ち上がる。
「…明日も頑張りますか。」
グッと腕を、胴を、そして足を伸ばす。
疲れた表情は幾分か和らいではいるが、それでも疲れた表情は取れきらない。
と、女性は空に目を向ける。
「…え?」
その耳、というよりは脳に直接何かが響いた様だ。
そして、今度は流れる川の中洲に目を向ける。
なかなかの大きさの川と小さな島の様な中洲がある。
代わり映えない風景だ。
「鈴の…音?」
夕暮れを通り越し、夜の帳が降り始め、辺りは人影すら見当たらない。
川に躊躇いなく入る彼女は、先程目を向けた中洲へと進んでいく。
この辺りの住人は誰もこの中洲には近づかない。
殺人鬼が潜んでいるだとか、毒のある生き物がいるとか、そして…異世界に繋がるとか。
そんな噂が昔からあり、要するに深い茂みは不穏な空気を感じさせるのだろう。
近づく人間はいなかった。
彼女以外は。
仕事の為に生まれ故郷からこの地に越してきた彼女は、もう何年もここに住んでいるが友人と呼べる人間もおらず、そんな噂などは知らない。
故に躊躇いなく進んでいけた。
茂みをかき分け、育ちきった木々を避け。
辿り着いたのは中洲の丁度真ん中。
「…きれい…」
そこに淡い水色とも白とも言える色の光の筋と煌めきがあった。
魅入られたように、女性がそれに手を伸ばす。
その光に手が触れた瞬間。
肩に掛けたトートバッグを残し、彼女は跡形もなく消えてしまった…