第七話 友の寂寞
「はい」
今日も今日とて、現在地はマリアの丘。だが今日は一人で握り飯をかじっていたところ、ぺしんと頭に軽い衝撃が置かれた。かさ、と目前に滑り落ちてきた菓子パンに、俺は菅田マリを見上げた。
「……なんすかコレ」
「昨日のお礼。なんにも持ってってなかったし、それくらいは受け取りなさいよ」
隣に腰を下ろした彼女は同じパンをもうひとつ持っていて、ビッ、といい勢いで袋を開いてはすぐにかぶりついた。見るに中身はイチゴのジャムとマーガリンの菓子パンか。女からもらいもんをするのは、もしかしたら人生初めてじゃなかろうか。地味に感動していたものの、安司は忙しいらしいと聞き一人でいた俺は不思議に思った。
「仕事じゃないの」
「……なんとなく何考えてるかわかるけど、いつも藤堂とペアなわけじゃないのよ」
お昼休みよ、とあっさり返答をもらうとそうなのか、とあっさり納得した。
今までも彼女だけの休みの時はあったんだろうが、その際に彼女一人と会ったことはない。仲が悪い訳ではないし、会えば会話は交わすが、その程度だ。しかし今日はわざわざ俺を探しにここまで来たんだろうか。おんなじパンを二つも買って、俺に渡そうと思ってきてくれたんだろうか。
ちら、とやや赤みの混じった黒髪を見下ろす。レナよりは短いが、まっすぐで艶やかな髪をしている。彼女が手にしているのは水筒と、今かじっているパンだけ。
「昼飯そんだけ?」
見上げてくる猫目にそうだけど、って書いてある。返事を聞く前に握り飯の一つを彼女の膝の上に置いた。丸くなった目に唐揚げ、とおにぎりをを指してやれば彼女は何やら不服そうな顔でパンをかじったままもごもごと言った。小柄に近い彼女になんて、と耳を寄せればガンと頭をぶつけられた。
「いってえ!!」
「意味ないじゃない、って言ってるの!」
「なんでそうやってすぐ手……じゃなくて頭だったけど、出すんだよ!凶暴だなあお前ー……安司はお前に殴られたことはないって言うぞ」
「あいつはあんたほど馬鹿じゃないわよ!」
「るせーよそんなの俺が一番知ってる……」
俺最近めっちゃ女に怒られてる気がする。いや、マリに関してはすぐに殴るし蹴ってくるんだけども。じんじん痛む頭を押さえていたがマリも痛かったらしく、やや涙目でパンをかじっては片手に頭を押さえていた。
言って安司ほどじゃないが、マリとも長い付き合いだ。四年?五年?どんくらいだっけ。同い年だし、同い年のする付き合いがよくわからないけど、これくらいの距離感でいいのかなあという感じでいる。喧嘩してご飯食べて、女の子ってそんなんでいいのか。
おにぎりがまだ残っているが、なんとなくマリを見ていたら俺も食べたくなってパンを開く。かじってみればやはり同じ菓子パン。思い通りの甘さが身に染みた。
「……ちゃんとあんたら、仲いいんじゃない」
ぽそ、とまたつぶやきが聞こえたが、何、と返せばなんでもないと言われた。
安司もおんなじような返答をしそうだが、彼に比べて素直にむすっとした女の対応を、俺はまだ対処できないみたいだ。
第七話 友の寂寞
「ぜんばいいいいいいいい!よ、よがっだでず、ほ、ほんどに、ぜんば」
「汚ねえ」
休暇なのか私服で飛び込んできたレナは周りの看護師にもなだめられるほどわんわんと泣き喚いて、それはもう顔がひどい惨状であるのに俺の傍らに必死にすがりつくものだから、灰色の髪をぐいぐいと押して離してやった。今までにも同僚や、まさかの少尉殿やらが見舞いに来てくれたものだったが、その中に一度もレナの姿はなかった。少し前まで懲罰房にぶち込まれていたらしいが、それでもわりと今に至るまでは期間がある。なんですぐ来なかったんだ、と聞くのは癪に障るので、黙ったまま頭を撫でていると、レナは膝をついてベッドに顔を突っ伏したまま、泣きしゃっくりを混じえて話してくれた。
「怖かった、です。本当に、怖かったです。先輩が食べられちゃったらって、びっくりして、本当にびっくりして」
「お前らを残したらなんもできねえのになあ」
「そうです、わたしたち、まだ、先輩の技術、まだまだ知りません」
「ん」
「でも、でも、そんなのより、先輩が、いなくなっちゃうって思ったらもう怖くって、会いに来るのも怖くって」
すびばぜん。汚い鼻声が濃くなったのに、俺の無い右手が震えた。
あの時、俺の記録係をしていたレナはどれだけ恐ろしかったことだろう。何も『マナ』に吸収された、もしくはその被害にあった人間が過去にいなかったわけじゃない。若い人間が食われた時もありゃ、整備道具が食われたり電気が食われることだってある。『マナ』は雑食だ。それを理解しているから、少ない人数で重要任務として行うのが『地球外マナ』の調査なのだ。触れただけで食われる時もありゃ、そうでない時もある。今回がたまたま前者だっただけだ。
ただ、この若もんは、そんなことも見たこたなかっただろう。七年前の『地球外マナ』を誰も知らない頃、こいつらはまだガキんちょだったのだから。
「『マナ』が嫌になったか?」
金属が好きなんです。油も鉄も全部ぜんぶ好きなんです。あ、勉強だってちゃんとしたんですよ。だから、喜んで働きますので、ぜひぜひ使ってやってください!
そうやってキラキラと目を輝かせてやってきた若者は、どういうことかおかしな性癖持ちだった。『マナ』は生き物なんだからな、というのを理解してんのかどうだかはわからんが、整備を喜んでやりやがる。おかしな奴だと思いつつも指示をすれば飲み込みは早いらしく仕事はこなす。だがミスも同じくらいに起こす。わけのわからんやつだった。
だが、そいつの笑顔をもうしばらく見てない。
あの、あの時の俺が、彼女が『マナ』を見る目を俺が変えさせたのかと思うと、嫌になった。
レナはしばらく鼻をすすっていた。
しばらくが終わる頃に、眼鏡をずらした真っ赤に擦れた目が上がってきた。
「……わたし、もっと、『マナ』について勉強します。技術も、先輩の手と足くらい働けるように」
「……うん、お前はやっぱりお前だな」
安心した。唯一残った左手で力強く頭を叩き撫でると、レナはそれがスイッチだったかのようにまたぶわっと物凄い勢いで泣き出した。
うそこけ、怖かったくせに。
妹というには程遠い、娘ほどの年の娘が自分の命の恩人なのだ。
あの時、ひどい顔をして待っていてくださいと叫んだ娘は、白い天使を連れてきてくれた。大事にしなくてはならない。この左手で、この娘を大切に出来るうちは。
ものすごく、ものすごく睨まれている。
俺の前で仁王立ちする、俺より頭一つ小さいくらいの男に、ものすごく睨まれている。
「吐け、鬼塚。お前がジュリオに変なことを吹き込んだんだろう」
そしてものすごく怒ってる。
綾瀬一心を前にした俺は、なんというか、そんなにこいつが怖くないっていうか絶対にそんなこと言葉には出せないんだけども、そのせいで俺のほうがどうしたもんかと迷ってしまう余裕があった。
午後の鍛錬を終え、皆が夕飯だ、外食にしようかどうしようかと嬉々に沸く時間におい、と呼び止められてみたら今に至ったわけだ。鍛錬場のど真ん中というわけではないにしろ、そこそこ目立つ場所でやられてみろ、どういう対処が正解なんだ。周りはざわざわと野次馬が集まっている。しかし一心はそれに一切動揺しないまま俺を睨み続けている。
そして、彼の目的もわからないわけではなかった。
「いや、俺からはなんもしてないけど……」
「とぼけるな、あいつがお前と飯を食うなどありえん!それに、気づいたときにはあいつの態度がすっかり変わっているんだ、お前ももっと素直になれだの、意識を改めろだの、俺に対してのお小言も多くなって……」
腕を組んでぶつくさという一心の言い分を聞くに、ジュリオの俺に対しての棘がなくなったらしいのだ。これまで無視、怒号程度の付き合いしかなかったのがだいたいの軍兵との関係であり、ジュリオとももちろんそれであった。そもそも彼の俺に対しての嫌悪はまだ穏やかだったが、それにしても彼の態度に揺らぎが現れたのは俺にもよくわかることで、むしろ俺が聞きたいところなんだけれども。
「ほんとに俺は何も言ってないし、飯だって俺の……友達っつーか、知り合いも何人かいた中でだし」
「なんだと、それではジュリオがやはり何かされたのではないだろうな!」
「だーかーらぁ……」
一心は一向に聞いてはくれない。こいつの苛立ちは俺にもあるだろうが、仲のいいジュリオの変化が気に入らなかったんだろう。人一倍学問にも鍛錬にも真剣にあたるこいつは、俺を特に毛嫌いしている一人であるからその苛立ちもひとしおのはず。
たいていのやつは俺を殴るでもさせときゃどうにかなるが、こいつは残念ながら人に手出しをしそうにもない真面目ちゃんだ。
何人かの視線も感じる中、ふと一心の背後に、ここ最近で見慣れた姿が現れた。そいつがこんと拳を一心の頭にぶつけると、まるでそれで分かったと言わんばかりにまっさきに一心は振り向いた。
「あ」
「な、何をする、ジュリオ!」
「目立つところで喧嘩を売っているお前の方に問いたいものだな」
宣言通り、隊服に身を包み、髪も細くきっかりと結ったジュリオは常の仏頂面よりも、やや柔らかい眼差しで友人を見ていた。そう親しくもない俺に分かる雰囲気なのだから、一心にはよりわかることだろう。目に見えてぐっと詰まった一心はその身をぐるりとジュリオに向け、今まで俺に投げつけていたのと同じテンションをぶつけ始めた。
「何をといえば、お前がおかしいからだろう!こいつのことをいいように言ったり、飯を食ったなどと……」
「考えを改めただけだ。あそこで治療を受けていなければ、俺は今ここにはおれん」
「そう、だとは言っても」
「何か気に入らないところがあるならぜんぶ言ってくれていい」
「っこいつのせいで俺達の立場がどうなっていると思っているんだ」
「どうもこうもない。俺達は俺達でやれることをするまで」
「……悔しくないのか、お前は!それでいいのか」
「全く同じことを聞き返すが」
あ、なんかまずい雰囲気に変わってきたぞ。
俺がひゅっと肩をすくめたところで、一心がぎっと歯を剥く。幼い顔ながらあからさまな怒りをいっぱいにしては、しかしやはり殴りも手を出すこともせず、唯一ばっと俺を押し飛ばす勢いをつけて、その場から歩き出してしまった。思わずよろめいた俺を見てから、ジュリオは去っていく友人であるはずの男の背を眺めていた。
「……なんか、悪いことしたな、俺」
あたりに少数であるものの、残っていた兵たちの嫌な目がジュリオにも向いている。申し訳なさが勝って、ジュリオに一歩歩み寄ればあちらからも近づいてきた。彼の本心がまったくもって分からず身構えてしまうと、一心のぶつかった肩に軽く手が置かれた。と思ったら、ジュリオはそのまま俺を促すように歩き出した。
「ついてこい」
「え、あのー?」
「話がある、それと、飯の時間だろう」
俺より背が高い奴は、上司たちしか知らなかった。否、そこらにいるのだけど、こんなに近くの距離で誰かを見上げることなど、久しかった。おまけにこいつ、十朱城と並ぶ美形なもんだから、もう。俺は形見が狭いのと罪悪感とで重くて仕方ない足を、それでも物悲しげなグリーンの瞳を無視できないとざわつく心で叩きかけて追いかけた。
ジュリオに案内されるうち、到着したのはネストの東側にある、外部商業街および一般人の居住区と繋がる地帯だ。許可を受けた店もそうでない店も、ごっちゃになってひしめく商店街がそこにはある。食材から鋼材、遊び道具に揃わないものはない。ネスト本部の防護壁である分厚い金属の自動扉を抜けた先は、オレンジの光が品々を照らす店店の並びだった。
別に、食材ならネスト内にある隊員たちのための店がある。そりゃあより外に近いこの東部市場の食事の方がおいしいだろうし、料理を職にしている人間たちが店を営んでいることもあるから、外に遊びに来る隊員も多いが、いかんせん俺はほとんどここに来たことがない。安司は人の多いところが好きでないと言うし、だとすれば一人でわざわざ来たくなる場所でもないからだ。
「めっちゃくちゃ久々に来た」
俺がキョロキョロあたりを見渡している理由を、ジュリオはなんとなく察してくれたような目で振り向いてくる。そうか、と小さく返事をされるのがくすぐったいんだなあ、と他人事に感じた。美形さんが歩けば人々も振り向くもんで、しかも俺の顔もそれなりに通じるのか妙に目立っているような気がした。
その俺たちが止まったのは見るからに酒の匂いのする居酒屋だった。
「……ここ?」
「何か問題があるか」
「いやー、えっと、金とかあんま今持ってねえけど」
「端末で給料から引けば早い」
「そのシステムあんま俺理解してなくってなー……」
「じゃあ今覚えればいい」
「というか、そのだな」
鼻をすするうち、めまいさえ覚えるような気がしてくるのは慣れてないからだ。
「俺、未成年で酒飲めないんだけど」
勘違いされているのだろうなとなんとなくわかっていたので、俺は笑って言ってみる。俺だってこいつが幾つか知らないし、所詮そんなくらいの関係だ。だったはずなのだが。
ジュリオは目をぱちぱちと丸くさせた後、なんだかいたずらのバレた子供みたいな顔をしてから、酒を飲まなければいい、と結局この店から動く気を見せてくれなかった。
いやあ、美人が綺麗な酒のむのは絵になりますわなあ。
俺はオレンジジュースを口にしながら、この空気が気まずくて仕方なく、またすぐにオレンジジュースを喉に流し込んだ。ジュリオのレモンが刺さったカクテルは8割強残っているが、俺の可愛いオレンジジュースは残り半分はとうにすぎている。
店に入って手早く注文をして、店主にオイいつもの友達はどうしたよとジュリオが声をかけられ気まずくなり、腕の端末の使い方を改めて教わって、俺はまだ19なの、俺は21だと話したところで会話が途切れた。届いた飲み物がまだ救いだが、周りは俺の何倍あるんだっておっさんばっかの中の沈黙。気まずい。ものっそい気まずい。なんだってこいつは俺をこんなところに。
からりと氷を回しながら、ジュリオは小さく口を開いた。
「本当は俺みたいに、お前をさほど悪く思っていないような奴もいるんだぞ」
意外とかそういう話のレベルでなく、俺は思わずむせそうになった。なんとか咳を一回するだけで落ち着いたので、驚きを隠しもせずジュリオと目を合わせた。
「わー、へえ、そりゃ初耳ですわ……」
「それよりも考えに固執する奴が強いものだから、どうにもな。俺も言って、この間までは何が抗体値なんぞと思っていたが」
「おうおう」
ここまでまっすぐ言われるとむしろすっきりするもんで。だがその悪口はどうも現在進行形ではないようで、俺は初耳の情報に耳を傾けてみた。俺を悪く思っていないだと、そんなやつ軍兵にいたっけか。会ったことねえぞ。みんな避けるし無視するし。あ、なんか場酔いしてきた気がする。やけにぼうっとする頭でうんうんと相槌を打つ。あとこいつ俺に次いで抗体値よくなかったっけか、とも思う。よく覚えてないけど。
ジュリオは会話の間に酒を喉に流した。
「……この間助けられた時といい、お前と実際話をしてみて、何か悪いところがあったかと考える機会があると、な。それに、そうでなくともお前に助けられた身だ、理由もなしに嫉妬で態度を変えるのは恥ずかしい話だろう」
「へい」
「だが、まあ、言い方が悪いかもしれんが、お前みたいな奴が必要なんだろうな。俺たちのような職場だと」
「わーってるつもりだけどなあ」
「……お前、酔ってるか?それはジュースだろう?」
「いつもこんなだよ」
安司には流されるような態度もジュリオには不服に感じるのか突っ込まれた。そりゃそうだよなあ、真面目な一心の隣にいりゃ俺がダメ人間に見えますわ。ジュースのグラスを揺らして見せれば、ため息を返される。
「酷いことをいったつもりなんだが」
「慣れっこだよ」
笑ってみるとすぐにまたため息を繰り返されるから、あ、間違えたなってなる。こういうのを理解するのに十分な時間はまだ俺とこいつの間にはない。それをつくろうと思ってみていいんだろうか。頬杖をついて、ふん、と顔を眺める。それから、俺から問いかけ返した。
「怒ってねーの」
エメラルドの瞳は、とてもきれいに丸くなった。先ほどの俺のように意外だったのだろう。大事なお友達じゃないの、と嫌味ったらしく付け足すも、こいつも怒りはしなかった。だがこいつの場合は慣れっこというわけではなく、彼らしい性格のためだろう。
「……あいつなら、わかってくれると思ったんだがな」
呆れとは違うため息の感覚で、言いたいことは、やっぱりわかるもんで。
「大事なんだ」
「俺にとってはな」
「ふうん」
「俺を、差別したりしなかったんだ。あいつは、優秀なのに」
それは、49の優秀な抗体値のことじゃない。それがなんとなく伝わってきて俺はエメラルドの瞳を見つめた。その時、彼の多くが理解できた気がする。彼の言動や、行動の理由。少し変わった日本らしくない名前の理由。エメラルドの瞳。あのお嬢様と同じ、綺麗な綺麗な瞳。
もしかして、アライジアのお嬢様を助けたってのがこいつにとってでかい変化だったのかな。
「ハーフかなんかなの?あんた」
俺は小さな確信を持って問いかけた。グリーンが少し物言いたげに伏せてしまったのが返事だ。否定はない。そうですかい、と言ってオレンジジュースのほとんどを飲み干してから、ジュリオからクオーターだ、と追加の情報が入った。
「……そっか」
「嫌がらないんだな、あんなに敵対しているのに」
「さあ、あんたのじいさんだかばあさんだかがどうだか知らねえけど、今のあんたがここにいてここで戦ってんなら、それはそれってか」
「そんなもんか」
「そんなもん」
本心だったが、ジュリオがどんな反応をするかも気になった。あ、俺なんか妙に緊張してる。だって、そりゃそうだろう。レナは技術部だからこの場合除外するが、俺を嫌っているはずの軍人の仲間に悪くはない感情を持たれている、もしくはもたれようとしているのだから。
それは、俺にとって、わりと大きな一歩だった。
やっとのことで刺身と、焼き鳥と、サラダとが運ばれてきた。
それをつつき出した俺は、またむせ返るはめになる。
「そういえばお前、一人っぷりが聞いていて時折悲しくなるレベルだぞ。俺が食事くらいなら一緒にいてやるが」
そう言って笑うのを真正面から初めて見た俺は、既に空になったオレンジジュースに助けを求めることもできず、えっと、としばらく言葉にできなかったのに、だらしないぞといつものようなお小言を食らうことになった。
その時、腕の端末に連絡が入っていたのに、すぐには気付けなかった。