秋の終月の十四日
朝は基礎の修練。
午後は試験に向けた検討会。
そして夕飯後に刺繍というのが、これからの生活パターンになってしまいそう。
「本当にこれに刺繍するんですか?」
今日、レイラが早めにと持ち込んだベールの布を見て、リリーナが悲鳴を上げた。
その気持ちは分かる。誰だって最初はそう思うもの。
ベールの絹は薄い。被っても顔がかなりはっきり見えちゃうくらいに薄い。つまり花嫁の顔を慎ましく隠すのはこれから一面に白糸で施す刺繍なのだ。そしてそれほどに薄い絹には、下絵を描くなんてことはできない。
誰でも後ろを向いて逃げ出したくなるような話だけど、これが塔の女子部のベールなのだ。そこに一切の妥協は許されない。
今日は刺繍の得意なマリーダと私とで基準になる模様から刺繍を始めた。リリーナはもちろんイリアも、とりあえずは他の布で練習する。
今回のもう一つの辛い点は、アリアとレイラは戦力にならないところだ。二人にはそれぞれ自分の帽冠の刺繍がある。帽冠の刺繍は早めに仕上げて、帽冠に仕立ててもらう時間もいるからそっちはそっちで急ぐのだ。今年は光の宴にかなり時間を取られたのでアリアもまだ仕上げてないし、花嫁というものは他にも色々用事がある。
つまりベールは四人で仕上げるしかないということだ。




