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秋の終月の十二日
今日、久しぶりに針を持った。
二人も結婚の予定があるのだし、そろそろ勘を戻しておかなくちゃ。
手慣らしにスカーフを一枚縫ってみる。
まあまあのできあがりだった。手近にいたイリアにあげると喜んでくれた。
ベールの刺繍は白と金糸銀糸の決まりだから、早めに糸を揃えておかなくちゃ。花嫁のための刺繍なんだから色や質にはこだわりたいもの。
試験はもちろん大切だけど、こっちだって絶対に手は抜けない。花嫁に恥をかかせちゃ大変だ。
花嫁のヴェールは花嫁の友人達が刺繍をする習いです。
他に、帽冠は花嫁が、ドレスは花嫁方の女性親族、魔術師の衣には花婿の女性親族が刺繍することになっていますが、上流階級では形骸化気味で、とにかく少し針を入れればいいというような風潮があります。
塔の女子部では代々ガチで作ります。




