秋の終月の五日
昨日の続きで宮廷に行った。
こういう仕事をするとよく思うんだけど、人というのは結構迂闊なものだ。汚れ仕事をするために、厚手の前掛けやスカーフを身に着けてしまうと、中身が誰かはわからない。それでうっかり内緒の話をはじめてしまう人が結構いるのだ。
もちろん、そんな形で聞いた話を広めるような真似はしない。
それは品性とかの問題ではなくて、私達が聞いているこを知られたくはないからだ。
リリカスの塔の魔術師は、塔主さまの配下だ。それは私達のような成年前の女子部でも変わらない。私たちは聞き取ったこと持ち合い整頓し、時に塔主さまのために役立てる。
別に普段から意識的に情報集めたりはしないけど、わざわざ警戒させるには及ばない。
同じようなことは実は女官もやっていて、宮廷の情報を握っている。女官というのはみんな、リリカスの塔に籍を置く中級魔術師なので、要は私たちの先輩なのだ。
で、何を今日、聞いたかというと、ザヴィータ大使夫人が吹き込んで回っていた「王太子様のご養子に第三王子殿下を」案を支持する者が意外にいるという事と、ザヴィータには第三王子殿下にちょうどいい年頃の姫がいるらしいと言うことだ。
もちろん塔主さまのお耳に入れるつもり。




