秋の中月の二十六日
アジャからの手紙が届いたらしい。前に草原の塔からの通信で言っていたとかいう手紙だ。前遊王の手紙が添えられていたそうだ。通常の船便だったので時間がかかったらしい。
アジャが通信を送ってきたのはひと月も前だし、女子部は前遊王の喪があけたばかりだ。わかってはいてもちょっと変な気持ちになる。
もちろんどちらの手紙も私が目を通すような事はない。塔主様宛だからだ。本当なら来たかどうかもわからなくても不思議はないんだけど、珍しく塔主様が塔にお戻りだったので教えていただけた。内容は「意外に重要で込み入っていた」そうで、教えて頂くわけには行かなかったけれど。
塔主様は感謝祭のねぎらいにとご馳走を振る舞ってくださった。特に仔牛のお肉は本当に美味しかった。軽く炙っただけなのに、柔らかくて甘みもあって、肉汁が溢れる。
食べるために牛を育てるのは貴族の贅沢だけど、特に乳離れしない仔牛は王族でもめったに食べないご馳走だ。
食堂で男子部の席を見てみると案の定というか、エドがちゃっかりぱくついていた。王弟のエドは最近塔主様やアマリエ様に並ぶほど、塔では見かけなかったのに。
デザートもカラメルと濃いクリームをかけて、アジャと菫と薔薇の花の砂糖漬けを飾った卵のプディングで、ものすごく美味しかった。中に甘酸っぱいベリーの砂糖煮が入っていたのもよかった。
美味しいものって、誰のことでも幸せにできるのがすごいと思う。今日は幸せな日だった。




