秋の中月の二十五日
朝、目が覚めて起き上がるとなんだか肌寒いと思った。考えてみるともうすぐ秋の終月だ。朝晩は冷えてもおかしくない。
談話室ではアリアとマリーダが温かいミルクティーを飲んでいた。
「おはよう。今朝はなんだか小寒いね。一緒にどう?」
よろこんで混ぜてもらった。
いれてちょっとたっているらしいお茶は熱すぎなくて、心地よく温かい。寝ぼけ加減の体が奥の方から解れて目を覚ましてくる感じ。
ちょっと寒がりのアリアは肩にショールをかけている。マリーダはいかにもマリーダらしいゆったりとした仕草で、本を読んでいた。
マリーダの髪は赤味がかった金髪で、何もしなくても緩い縦巻きロールになっている。その髪を首の後ろで無造作にくくっているのだけど、幅広の赤茶のリボンの下に縦巻きロールが下がっているのは結構さまになっている。
しばらくすると、今日は外出する用事があるとかでアリアが自室に戻っていった。
「婚約者の家に招かれているらしいよ。」
そろそろ話が本格的に動き出しているらしい。
「ねえ、」
マリーダが読んでいた本から目を上げて、声をかけてきた。
「上位試験に受かったら、エリシアはどうするつもり?」
中級上位の試験に受かったあとの進路はいくつかのパターンがある。
一つがそのまま塔に居住しながら縁談を待つという方法。
塔に居住していれば、感謝祭や新年の宴の時に謁見の場に並ぶので、見初められることも多いからだ。
もう一つが塔を出て縁談を探す方法。
塔に残って塔付きの魔術師として働く道。
そして更に学んで上級資格を目指すという道だ。
後のふたつを取るものはリリカスの女子部ではほとんどいない。リリカスの女子部は基本的には貴族の令嬢が所属するので、結婚することが前提になっている。だから結婚条件が難しくなる上級資格を目指したりはしないし、塔付き魔術師になることもまずない。
ただ、私はそのどれとも違う進路を考えている。
母の下で女官になろうと思っているからだ。
普通は結婚してから婚家の名前で出仕するものだけど、我が家では事情が違う。母は結婚する前から女官として出仕していたし、父は入婿だ。我が家は代々女官長を務めていて、私も幼い頃から女官長になるべく育てられている。今ではその目標は代々務める我が家の役職というだけでなく、はっきりとした私自身の志望になっていた。
私は女官長として、王太子様を、王弟のエドを、支えたいと思う。
私ならリリカシアとなったアマリエ様と連携して、宮廷を支えていけるとも思っている。
だから、マリーダにははっきりとした答えを返せた。
「女官になります。」
「そっか。そうよね。」
それだけで、マリーダはまた本に目を戻した。
そういえば、マリーダはどうするつもりなんだろう。




