秋の中月の九日
スレイヤ様は相変わらずアマリエ様のリリカシア就任支持を、主張してまわっておられるそうだ。スレイヤ様の寵姫という身分は公式のものではなく、国王陛下の寝室付の侍女ヴォルマーク嬢というのが正式の身分になる。初位では女官にもなれないので陛下が個人的にお雇いの侍女という扱いなのだ。
もちろん王子、王女の生母であることは記録されているけれど、嫡母はあくまでリアーナ。リアーナのすでにいらっしゃらない当代ではリリカシアである塔主さまが、公式には王子王女の母君になる。
つまり、スレイヤ様には王妃の選定に口を出せる謂れなど全くないということだ。
ザヴィータにのせられているっぽいみたいだけど、どうしてこう、話をかき回すんだろう。
なんでこんな話になったかというと、ずっと女官の皆さんと練習をしているからだ。女官だけでなくて、楽師も踊り手も言ってみれば宮廷の関係者なので、いつもよりも噂話がよく耳に入る。
中で一つ奇妙というか嫌な噂があった。
第三王子殿下を、王太子殿下の養子にするという噂があるというのだ。弟を兄の養子にと言うのは無い話ではないけれど、ご結婚もご即位もまだのこの時期にそんな話が出るのはいくらなんでもおかしい。どうもザヴィータ大使夫人がそんなことをスレイヤ様に焚き付けているらしい。
もう、やだやだやだ。
どこから突っ込んだらいいんだろう。
嫌な話な上に出てくるのが的外れな名前ばかりなんだもの。
スレイヤ様と同じようにザヴィータだって的外れなのだ。
だってアマリエ様の母君の生国といったって、ほとんどつながりもなかったのに、影響力だけはあるつもりでいるんだもの。
本筋にどうやっても絡みっこない不協和音が、音量だけは大きくって耳障りなのだ。本当になんて迷惑なんだろう。
女官にも楽師にも踊り手の奥方達にも、ザヴィータとスレイヤ様の評判は散々だ。
練習は結構うまく行っている。
正門も女官の皆さんが手順を覚えたことで揃ってきた。何かのときに困るからイリーナがもうちょっとしっかりしてくれるともっといいんだけど。
まあ、ないものねだりも良くないのだろう。
考えてみるとイリーナは、塔にだって入ってから大してたっていないのだし。
とりあえず的外れな不協和音のことは置いといて、今は練習あるのみだ。




