夏の終の月二十七日
アリアに縁談があるらしい。
別にちっともおかしな事じゃない。アリアだって十八だし普通に嫁ぐ年頃だ。
お話はもう結構具体的に進んでいて、年明けにも輿入れと言うことになりそうなのだそうだ。
「もう昇位試験は受けないことになりそう。」
感謝祭に使う魔法陣の支度をしながら、アリアが言った。
アリアの階位は中級中位。私と同じであと一つ試験に受かれば中級上位になれるはずだった。
「そう。仕方ないよね。お輿入れだもの。」
リカド貴族の娘で魔術師の階位を持たないものはいない。少なくとも初級中位は必須だし、初級上位ぐらいはざらにいる。女学院ではそこまででさらに上を目指すものは塔に入る。
優秀であれば中級初位から次々階位を上げて、それでも上級魔術師の資格を取れる者はほとんどいない。
貴族の娘というものは必ず嫁ぐものだからだ。
年齢的にも適齢期の過ぎる前に上級資格を取るのは難しいし、そもそも上級資格となると、親が難色を示すことが多い。上級魔術師の結婚はあまり歓迎されないからだ。
上級魔術師は国の戦力に数えられる程の存在だ。
それ故にその結婚には厳しい枷がかけられる。
女性上級魔術師には結婚せずに子供を持つ人も少なくない。
そのぐらい結婚の条件を満たすのが難しい。
貴族の娘となると、やはりその辺りが問題になってくる。
だから上級魔術師の資格を取るのはアマリエさまのように普通の貴族の娘の範囲からずれている人か、そうでなければ貴族意外の女性になりやすい。
だから塔に入った貴族の娘は中級上位を目指す。
私もアリアもあと一歩のところまできていたのだけど。
「エリシアは間に合うわよ。頑張って。」
アリアと私は一つしか違わない。私だって本当なら、いつ縁談が決まってもおかしくない。
「がんばるね。」
私が答えると、アリアが笑ってうなずいた。