秋の初月の二十五日
衣装合わせはうまくいった。
音楽の関係もあっていつもは宮廷で練習している踊りを、旋律を歌いながら踊ってもらった。
ベールもスカートも、思ったとおりにふわりと広がる。
大きなサイズ直しもなく、衣装を無事に踊り手に渡すことができた。
お茶とお菓子を用意して、踊り手のみなさんをもてなしたのだけど、その席で妙な話を聞いた。
寵姫スレイアさまが、アマリエさまの次代リリカシア就任を支持しているというのだ。
「あの方はご自分がリアーナになることぐらいしか興味ないのかと思ってた。」
マリーダがさっくり言っちゃった言い方はきついけど、私もそう思ってた。とにかくお妃の位につきたいみたいだったし。
「でもあの方はねえ。初位だし。」
ロザンナが言った初位というのは初級初位のことだ。魔術師の階梯の一番下。ぎりぎり魔術師の衣が着られる位。
魔術国家とも呼ばれるリカドで初位というのは「なんとか常識は知っています」程度の意味しか持たない。貴族の娘なら初級中位は最低限、初級上位を取って普通。女官として宮中に入るなら中級の資格がいる。
第一、宮廷の礼服も花嫁衣裳も、魔術師の衣を一番上に着るのが前提になっているのだ。外国から嫁いでくる王妃でも無位はありえない。
だからスレイアさま本人以外は、スレイアさまのリアーナ就任はないだろうと思っていた。スレイアさまの父君であるヴォルマーク侯だってそんな期待はしていないだろう。
美貌と家名だけで手に入れられるほど、妃の位は甘くない。
それでもスレイアさまは王の寵愛とご自分の産んだ王子、王女を頼みに望みを抱いていらっしゃったようだけれど、それでどうして王太子様のリリカシアの人選になんか口をだそうと思いついたんだろう。
「正直、あんまりいい気はしないね。」
マリーダのつぶやきに頷いた。
アマリエ様以外に王太子さまのリリカシアの務まる人はいないだろうけど、下手な口出しがあると話がさらにこじれそう。
そもそもザヴィータがつまんない手出しをしなければ、こんな面倒なことにはならなかったのに。




