夏の終月二十七日
またザヴィータの大使が何やら動いているらしい。
アマリエさまの母君がザヴィータ出身なのは事実だけど、ザヴィータはその事実を余りにも強調しすぎていると思う。
そもそもアマリエさまが生まれてすぐに母君は亡くなっておられて、アマリエさまは母方の親族とはほとんど交流もなかったのだそうだし、もっと言えばアマリエさまは脇腹の生まれで、母君はジャイル家当主の正室ではないし、そもそも母君自体がザヴィータのスコルツア家の脇腹の令嬢だったと聞いている。
何が言いたいかというと、母方の親類が大きな顔をするような間柄ではないということで、ましてザヴィータという国が介入してくるような事ではない、ということだ。
もともと、ザヴィータだって忘れるだか、見落とすだかしていたに違いない。そうでなければ王太子さまのリアーナの候補に自国の王女をゴリ押ししようなんてしなかったろうと思うもの。
おかげで王太子さまのリアーナに決まったセレスティアさまのご実家であるエレインのみならず、ご婚約のなかだちを務めたブルジアまで気持ちをこじらせて、アマリエさまのリリカシア内定に不満を唱えている。
もともと双王妃制度は諸外国にはあまり評判が良くない。
せっかく婚姻を結んでも同格の王妃がもう一人いて、政治的にも大きいリリカスの塔の主であるというのは、確かにぱっとはしないに違いない。
そこへもってこの騒ぎ。
本当になんて迷惑な国なんだろう。こんな騒ぎを起こすから、アジャを国外に出さなければならなくなったのだ。アジャが上級魔術師の資格を取った途端、アジャをリリカシアにという声が出てきてしまったので。
今も根強くアジャを連れ戻せという話はある。
居場所がわからないということで、塔主がさまはかわしているが、アジャが海賊を退治したという話が伝わった時は大変だった。連れ戻せという声は大きくなるし、ザヴィータ大使はあっちこっちで探りを入れてくるし。
塔主さまがアジャを押さない理由は塔の人間になら簡単にわかる。アジャでは、アマリエさまほどに王太子さまの補佐ができないからだ。
王太子さまと入れ替わりに塔に入ったアジャは、そもそも王太子さまとそれほど親しくない。
王太子さまと一緒に学んだアマリエさまだからこそ、この困難な状況で、体の弱い王太子さまを支えることが出来ているのだ。
人間はものではないのだから、条件さえあえば入れ替え自由とはいかない。
なのに、なのに、なのに
何なんだろう、このもどかしさ。
せめてザヴィータの大使が黙ってくれれば、状況は改善すると思うのだけど。