秋の初月十八日
最近、陛下のご容態が落ち着いているそうだ。
王太子さまが取り寄せた薬がきいたらしい。
珍しくお母様が塔に来て話して下さった。
最も、アマリエ様は王太子様にこそ安静にして頂きたいと気を揉んでいるそうだ。最近の王太子様は体調を崩しやすくて、今もお風邪をめしておられるらしい。
いっそ王太子様が即位すれば、エドを正式に王弟、アマリエ様をリリカシアとして公に執務に参加させられるにだけど。
今の状態では二人は内々にしか執務に関われないし、塔主さまが引き受けられる執務にも限度がある。
塔主さまだってリリカシアと塔主の地位をアマリエさまに譲ってしまえば、もっと自由に動けるのだ。リリカシアではなくなっても、すでにリアーナがいないのだから王の嫡母は塔主さまになるのだし。
王がもっと回復あそばして、ご譲位のことがなだらかに進んでくれればいいのだけど。
お母様はアイラ様のところに何か用事があっていらしたそうで、ちょっと立ち話しただけで王宮に戻られた。お母様も忙しいのだろうけど、今は私も余裕がない。踊り手の衣装の仕上げをしているからだ。
刺繍や縫物は嫌いじゃないし、苦にならないほうだと思うけど、こうも猛然と毎日針を動かすのはさすがに初めてだ。魔術師の塔の女子部なんだか、お針の会なんだかさっぱりわからないくらい、今は皆でひたすら縫物をしている。
今回の感謝祭が終わったら、全員お針子になれるほどに縫物の腕が上がると思う。
そうなるとアジャがますます下手ってことになるなあ。




