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秋の初月九日

 今日も刺繍。

 でもちょっと光明が見えてきた。

 アイラさまの手配で、宮廷女官にも手伝ってもらえることになったからだ。宮廷女官なら誰でも中級以上の魔術師だから、厳密にいえば塔に所属している。そういえばお母様だって中級上位の魔術師だもの。

 そして刺繍のできない女官なんてありえない。

 今日は朝から女官が材料と見本を取りに来て、持って帰った。詰め所に置いて暇を見て仕上げてくれるそうだ。当日の人手も出してくれるという。

 本当に助かった。

 今のご時勢では誰にでも手助けを頼むわけにはいかないもの。お母様の配下だったら安心だ。

 細かな注意のために詰め所に出向いて説明して、帰りに宮廷内を歩いているとザヴィータ大使に会った。

 お辞儀だけしてさっさと通りすぎるつもりだったのに、呼び止められてしまった。

 「これはアゼランシャア孃、ご無沙汰でしたな。」

 べつに話す理由も合う理由もないもの。

 「ザヴィータ大使さまにはご機嫌よろしゅう。」

 「お母上とはよくお話しておりましてな。」

 知っている。たまに会うとぼやいてるもの。話がくどくてしつこいって。

 「母からきいておりますわ。」

 「おお、話が早い。」

 大使が派手に顔を歪めてにっこりした。この人、顔の筋肉柔らかそう。ちょっと気持ち悪いぐらい。

 「ではもちろんフィラナンドラどののことを聞いておいででしょうな。彼女の母親は我が国の出身なのですよ。」

 フィラナンドラというのはアマリエさまの二つ名だ。

 「リリカシアさまもフィラナンドラどのをかっておられるご様子。もちろん塔の総意と見てもいいのでしょうな。」

 このひとはひとを苛立たせたくてやっているのかしら。

 「アマリエさまはもちろん優れた術者ですわ。」

 できるだけにっこり笑う。

 「アマリエさまは気さくな方ですし、皆、ご事情は存じてますの。お母様は母国で大変なご苦労をなさったとか。」

 それからちょっと慌てたように口を抑えてみせた。

 「まあ、すみません。よそのお国のご事情ですわね。」

 それから丁寧に礼をした。

 「よそ様のご事情に口を出すなんてはしたないことを致しましたわ。自分たちのされたくないことをするのは感心いたしませんわよね。失礼いたしました。それでは。」

 大使の鼻白んだ表情を見れば、多少溜飲が下がらないでもなかったけれど、そんなのはささやかな話だ。あの気持ち悪いグニャグニャ顔、なんだっていらない口を出すんだろう。

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