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秋の初月八日

 今日もひたすら刺繍をした。

 ずっと同じ文様を刺すので、さすがにだんだん飽きてくる。

 「そういやアジャって、去年も刺繍から逃亡したよね。」

 イリヤがぼそっとつぶやき、リリーナ以外の全員がうなずいた。

 いや、今年は逃亡したわけじゃないんだけど。

 去年は感謝祭用の壁掛けが傷んできていたので、みんなで作り直したのだ。もとの図案をそのまま再現したんだけど、やたらに細かい柄で、あれもとても大変だった。

 そんな時に男子の方に盗賊退治への派遣の話が出たのだ。

 アジャは、薬師の知識があるからという理屈をつけて、そっちに混じって出かけてしまった。要は刺繍から逃げたのだ。あの子は刺繍、苦手だから。

 結局、アジャが薬師として活躍する場面はなかった。かわりにアジャは一番の戦果を上げた。

 盗賊の根城の破壊と殲滅。

 まだ中級魔術師だったアジャの活躍は怖いほどだったという。

 不意打ちを受けたときに乗騎を切られ、激昂したアジャは躊躇うことなく盗賊を血祭りに上げていったそうだ。

 首領はなんとかエドが確保したものの、盗賊の殆どは死んだらしい。

 「かっとなって殺してまわった、っていうのとも違うんだ。」

 いつだったかエドが、言っていた。

 「アジャは冷静だった。他のものとの連携もとってた。冷静に効率よく、盗賊を殲滅していたんだ。」

 遠隔魔法の魔法陣を使いこなして、時に撹乱し、追い込み、獲物を狩るように淡々と盗賊たちを狩っていったという。

 「俺たちの出る幕なんてなかったよ。」

 それは国の戦力に数えられる上級魔術師にふさわしい戦果だった。アジャの階位試験の折にも考慮されたであろうことは、疑いもない。

 帰ってきたアジャが泣いて、みんなで慰めたのも覚えている。

 傷つき立ち上がれなくなった馬に、アジャは自分でとどめを刺したのだそうだ。

 盗賊のことは何も言わず、ただそのことを悲しんでいた。

 結局アジャは殆ど刺繍をしなかったけれど、誰も何も言わなかった。そもそも大して期待してなかったということもある。

 今日はみんなの手が慣れてきたこともあってか、よく進んだ。それでももちろん明日も刺繍三昧になるだろう。

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