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冬の中月の十四日
今日の夕食は鹿だった。
ローストはさすがに少しづつだったけど、鹿の肉団子をたっぷり入れた具沢山のスープは、余るぐらい作ってあった。
しかも珍しく塔主さまとアマリエさまが揃っておいでになった。
理由はわかる。
明日には塔を去るレイラへのはなむけだ。
厨房がこの日に合わせて鹿のローストを仕込んだのも、そもそも男子部が狩に行ったのも、きっとそういうことなのだろう。
アマリエさまだけでなく塔主さまも針を手にとって、ベールに刺繍を加えて下さった。
レイラの縁談は、単なる個人や家の縁談ではない。
レイラは国のためにゆくのだ。
レイラが幸せになることを、ただ祈りたいと思う。
国のために嫁ぐのは、国の犠牲になることではない。けれどもレイラの結婚が不幸であれば、レイラは結果的に犠牲者になってしまう。大切な友人にそんな目にはあってほしくない。
どうか、レイラの婚約者が、レイラの愛情と信頼に値する人物でありますように。