秋の初月七日
今日はみんなでひたすら刺繍をした。
「この作業に関しちゃアジャは、いてもたいして役に立たなかったわね。」
アイラがつぶやき、リリーナ以外の全員がうなずいた。
アジャは魔力が関係なくても、小技のきく方ではなかったからだ。刺繍も全くできないわけではないんだけど、手が遅い割にちょっと雑。まあ何事にも向き不向きってあるんだろう。
透き通るほどに薄い生地に、魔導金を仕込んだ赤い糸で魔力を誘導する文様を描く。模様の所定の位置に晶灯を縫い付ければ出来上がり。
試作品の、棒を通せるように筒に縫っていたのはやめて、必要に応じてリボンをつけることにした。
とにかく大量に縫わなきゃいけないから手早く、でも文様は正確に。無言でひたすら縫ったけど、今日だけで終わるわけがない。とりあえず、明日も刺繍をしよう。
晶灯をつけるのに使う魔力誘導の文様は、塔で普通に照明をつけるのに使われています。
魔力転移でなく、魔力を文様に沿って走らせるもので、よほど長過ぎなければ使うのは難しくありません。
晶石には周囲の魔力を取り込む性質と、魔術を記憶する性質があります。
晶灯の場合は光る魔術が記憶されており、人間が魔力を加えることで発動、停止します。