冬の初月の十九日
レイラが帰って来た。なんだか色々大変だったみたい。
「結婚って面倒くさいわね。婚約者ったってろくに知りもしないんだから。」
なんというかちょっとやさぐれた感じもする。本当に大変だったんだろうなあ。
アリアのベールも届いたので、そっちのガイドの刺繍もした。レイラが自分の帽冠の刺繍の気分転換だと言って、アリアのベールの裾模様を刺繍してくれた。アリアも時々レイラのベールの刺繍をしてくれる。
実家にいる間のレイラはとにかく忙しかったそうだ。その忙しい最中にザヴィータ大使夫人がわざわざやって来て、レイラの婚約者について告げ口をしたらしい。
「すでに女がいるとか、隠し子の噂があるとか。そんな事気にしちゃいないわよ。全くこっちは忙しいっていうのにつまんないことで時間を取らないでほしいわよね。」
確かに外交の家のレイラが外国に嫁ぐということは、もう国の外交の問題だ。たぶん本人を含めた関係者の誰もがそう思っている。レイラはそういう家に生まれて、そういうふうに育った娘なのだ。それでもこれから嫁ごうという相手の女性問題なんて、わざわざあげつらわれるのは不愉快だったろう。
今日はおしゃべりが盛り上がった割には、刺繍もよく進んだ。