夏の終月二十五日
リアーナ=エリシア。
対になるリリカシア=アジャ·アズライアに比べると地味な存在に思われがちな彼女だが、王をよく助け、王子王女の育成に力を注ぎ、よく国の母としての役割を果たした。
特にアジャの娘にして次代のリリカシアとなった王の養女マナリアとの関係は、実母アジャよりも濃やかであったことが知られている。
幼い頃からつけていたという彼女の生涯に渡る日記は、激動の時代の記録として王家の蔵深くに大切に保存されている。
これはその中でも、リリカシアとなるアジャの旅の記録と対になる、エドウィン王即位前夜の激動の記録である。
今日、アジャからの手紙が届いた。私でなく、塔主さまとエドのもとにだけど。エドに届いた包みは大きくて、手紙やお土産がいっぱいに詰まってた。ほとんどはアジャらしく「みんなで適当に分けてね。」という大雑把さだったけれど、一つ、私を名指しにした包みがあったと、エドが渡してくれた。
中身は一束の絹糸だった。とても鮮やかな紫色の。包み紙に走り書きがあった。
「エリシアへ。貝から取れる染料で染めたという糸です。ラジャラスで見つけました。」
それだけ。
全くアジャ流というか、本当に大雑把なんだから。
神威からここまで二ヶ月もかけて届いたわけだから、この包を送り出したあと、もうアジャも移動してしまっているだろう。今頃どこで何をしているかしら。
国王陛下のお加減は相変わらずはかばかしくない。
ここ数年、ずっと寝付いておられたけれど、最近は眠ってばかりおられる。
王太子さまの即位ももう遠くはないだろう。今だって実際の政務は王太子さまが取っておられるのだから。
塔主さまもアマリエさまも、最近は滅多に塔の方にお戻りにはならない。
本当に、アジャがリカドを出たのはギリギリの機会だったのだと思う。あの時を逃したら、リカドを離れることは出来なかっただろう。
でもきっと、アジャはそんなことまるでわかってないんだろうな。あの子は結構無頓着で、自己評価が低いから。
本当に、今ごろどこで何をしてるんだろう。
暦は月を基準にしています。
一年を四季に分けて、一つの季節を初月、中月 、終月にわけます。
一月は三十日。
六年に一度、春の前に季の月が入ります。