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ミ/re/タ/v/o/ビ  作者: 目咲 ゆう
Three Days.ー逃走ー
3/6

First Day. /Ⅱ/ 『逃走』

時刻は夜の10時を回る。


抜け道は僕の家への近道となっていた。常人では通れそうもないところも長年の経験で軽々と越えられた。


その近道は一度、大通りとまではいかないが小さいとは言い難い道に抜けるのだった。


その通りで、その街灯も人通りもない通りで僕は今出会ってはならない異形のモノに出会った。


異形のモノはまだこちらに気付いていない。

だが、僕はその気迫に負け、身体が固まってしまっていた。


ー逃げなきゃ...


その異形、その深い黒に近い緑のローブを被ったそれは、手の中にギラつきを持っていた。すなわち刃である。その形状はどこかハサミを想起させた。

それは気を失っている女にまたがり今にもその腕を、凶器を振り降ろそうとしていた。


「ッ…!」

その言葉ともならない僕の悲鳴はそれが僕に気がつくのには十分だった。


異形には人と同じく目があった。その目に僕の視線は吸い寄せられていた。それが僕に気をとられた瞬間にー


「キャアァァー」


女はそれを突き倒した。そしてそのまま逃げ去ろうとした。

それは倒されたがすぐに起き上がると女ではなく禍々しいオーラを放ちながら僕の方を見た。

女が半ばこけそうになりながらも逃げると同時にそれは僕に襲いかかってきた。


なぜ足が動いたのかわからないが、僕は逃げ出していた。そのまま立ち竦んでいれば死ぬことができたであろうに、などとも考える間もなく、本能のまま無我夢中に逃げていた。

もう僕の脳は正常には働いていなかった。

反射に近い思考で道を選び逃げる。ただ、それだけしかできなかった。


そんな僕の頭の中にも一つだけ答えが出ていた。

それは。

“奴は切り裂き魔ジャック・ザ・リッパーだ”というモノだった。


どれだけ逃げたか分からないが本能とは不思議なもので、働いていたのは帰巣本能というものらしかった。使い慣れた抜け道という抜け道全てを使ってたどり着いたのは町外れにあるスラム街の真ん中、自分の寝床となっている場所だった。目の前にはいつもの見慣れたコテージがあった。そのコテージはとても小さくとても古くとても脆かった。



ーー 0時を告げる鐘が鳴り響く。ーー



振り帰ると誰もいなかった。確かにさっきまで背後に足音がついてきていたが今はもう無くなっていた。どうやら上手く巻いたようだ。

あの切り裂き魔ジャックザリッパーとて初めての道には弱いのだな、と心の中で思った。

そこで初めて僕の緊張は崩れるようにとけたのだった。


********************


僕は力が抜けたまま扉の鍵を開け、その埃とカビの臭いが充満している部屋の真ん中の藁へと寝っ転がった。

藁がチクチクと身体に刺さるがそんなことは命がある、という安心感に全て打ち消されてしまった。

しかし、安心という感情はすぐに打ち消されるものだった。すぐに、不安、恐怖、後悔、主だってこの三つが奥から湧き上がってきた。

僕はすぐさま飛び起きると部屋に唯一ある家具のタンスを部屋の入り口に押し運んだ。床が今にも引き裂けそうな音を発しながらタンスを支えている。扉にタンスを立てかけるように置くとまた藁に寝っ転がった。

藁がとてもチクチクとしていた。


僕はその数瞬後全てを振り払うかのように眠りについた。

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